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横浜つづきクリニック
-内視鏡内科 心療内科 内科-
2021年04月28日
院長の日常
こんにちは。院長の河原です。暖かい日が増えて過ごしやすくなってきました。私はすべての季節が好きです。春も夏も秋も冬もそれぞれ好きです。私は日本の四季は海外に誇れるものだと思っています。それぞれに味わい深いものがあり、きちんと四季がある(そう、きちんとです。夏はきちんと夏ですし、冬はきちんと冬です。春も秋もきちんとしています)日本は、とても美しいと密かにに思っています。
私の家は、クリニックまで徒歩で行ける距離にあることは前にもブログでお話ししました。信号はありませんが、10分くらいかかります。そのたった10分間も、ただ歩いてしまってはただの通勤にしかなりませんが、周囲に目をとめながら、味わうように歩くと、ただの通勤ではなくなります。
以下はある土曜日の河原です。
「いってらっしゃい」と言う子供の元気な声に励まされて玄関を出ると、私は燃えないゴミを両手に持ってエレベーターに乗った。(なぜ燃えないゴミは土曜日だけなのだろう。1週間分は一つのごみ袋に収まらないのに) 土曜日なので人気はなく、静かだった。土曜日は管理人さんもいないので、ゴミ集積場の扉は開いたままだ。ゴミ2袋を、音をたてないようにそっと指定の場所に置いてマンションを後にした。
先週は暖かかったけど、今日は少し寒い。空気が冷たいけど、気持ちが引き締まるようで心地良い。家を出て少しのところに大きな桜の木があるが、さすがにもう葉桜になっている。見上げると空は吸い込まれそうなほど真っ青だった。雲一つ見当たらない。
クリニックまでのルートをどうするか、数秒考えて今日は大きな階段の方から行くことにする。(大きな階段、小さな階段の2つの階段が家の近くにある)
階段をゆっくりのぼる。若い時は必ずと言っていいほど階段は2段飛ばしで駆け上っていたけど、今は1段ずつゆっくりとのぼる。そこで、まだ誰にも会っていないことに気が付いた。本当に静かで、自分が階段をのぼる靴の音だけしかしない。鳥の声でも聞こえたらいいのにとふと思った。(最近「ことり」という本を読んだので)
そんなこと考えながらのぼっていると、電車が通っていった。「がたたん、ごとん。がたたん、ごとん」とリズミカルに、にぎやかな音を出していた。私はこの音が嫌いではなく、昔子供に買ってあげたプラレールの電車が鉄橋を通るときの音が好きだったことを思い出した。
階段をのぼり切っても、まだしばらく上り坂が続く。坂をのぼりながら、家並みを眺めた。どの家にも木が植えられており、どの木もきれいに剪定されている。どの家もきれいで、新築のように見えた。それぞれの家にはすべてに人が住んでおり、その人たちにはそれぞれの人生があり、生活があるのだなあと思った。みな人生という大海原に小舟を浮かべて、ある時は早く、ある時はゆっくりと、それでも力強くオールを漕いで進んでいるのだなあと思った。今日は土曜日だからどの家もまだ静かで、まだ今日という1日が始まっていないように見えた。
ある家には、紫色のかわいい花が並んでいた。私には花の名前はわからないけれど、その小さな花たちは、とても儚くて弱々しいながら、しっかりと私を励ましてくれた。私はその花たちに心からのコンパッション(そこに咲いていてくれてありがとう)を送った。
坂をのぼりきったところでマスクをいったん外し、(まだ誰にも会っていなかった)ゆっくりと呼吸瞑想をするときの深呼吸を行った。冷たい空気はとてもおいしかった。澄んでいて、透明感のあるきれいな空気だった。再びマスクを着けて歩き始める。
そのまま歩を進めると、竹林が見えた。長男が小学生だったころ、夏休みの自由工作の題材にするのに、竹を取りに林に入ったことを思い出した。あの時は夏で、虫よけスプレーをたっぷりと吹き付けてきたから大丈夫だと息子には言っていたけど、蚊を甘く見ていたことを思い知った。ああ、足を蚊に刺されたと思って、ふと長男を見ると、長男の周りに蚊の大群がいた。誇張ではなく、まさしく大群だった。50匹以上いたと思う。恐ろしくなって長男と竹林を駆け下りて逃げた。帰ってから刺されて膨らんだところを数えたら、32か所もあった。かゆくておかしくなりそうだったのを思い出して、マスクの下で苦笑いをした。
地区センターの前で掃除をしているお兄さんの姿が見えた。家を出て初めて目にした人の姿だった。まったく知らない人だけど、その人にコンパッション(あなたにとって今日一日が平穏でありますように)を送った。竹林と歩道の淵にはたくさんのきれいで可愛い花が咲いていた。その、名前もわからないかわいい花たちにもコンパッション(あなたたちの存在は少なくとも僕の心をほっこりさせたよ)を送った。
地区センターを超えて歩道橋を渡ると、少し見える人が増えてきた。みんなマスクをしている。みんな何となくつらそうな顔をしてみえた。少なくともワクワクして歩いている人の姿は見つけられなかった。だからみんなにコンパッション(今日の夜にはみんな笑顔になっているといいね)を送った。
歩道橋を渡るとクリニックの看板がみえてきた。さあ、今日も一人でも多くの人の気持ちに寄り添うことができますようにと、自分に念を送った。
このようにして河原の土曜日の仕事は始まります。上記は仕事に向かうまでの通勤途中の描写になります。描写中に出てきた呼吸瞑想というのは、呼吸に意識を集中して体の力を抜いていくマインドフルネスな瞑想のことです。呼吸そのものに意識を集中して全身の筋肉を弛緩していきます。副交感神経を優位にするのに役に立ちます。
また、上記のようにコンパッション(優しさや思いやり、慈悲といった意味です。)を送りながら歩くことをコンパッションウォークと言います。
目に留まった生き物や無生物にコンパッションを送ります。遠くに見える知らない人に「今日が良い日になるといいですね」と、思いやりのある言葉を想いに乗せて送るのです。足元の花に「今日もきれいだね」とか、散歩中の犬に「おいしいものが食べられるといいね」とか、富士山に向かって「君は毎日たくさんの人の心を癒しているね」という風に。
コンパッションウォークをして、周囲に目をとめながら歩くと、日常を味わうことができます。これから仕事に向かうにしても、コンパッションウォークをしながら通勤すれば、日常に彩が加えられ、日常が違って見えます。日々の生活に辛いことを抱えて霞んだフィルター越しに世界を見ている人にとって、コンパッションウォークはその霞を少し取ることができるかもしれません。
日常を生活していくって、苦しい事、きびしい事、多いですよね。そんな中を、誰にも知られずに歯を食いしばって懸命に戦っている人がたくさんいます。そう、誰にも知られずに。
昔「戦場のピアニスト」という映画を観ました。主人公がピアノを弾くシーンで、気が付くと大量に涙が出ていました。長く過酷な戦場を見て、すさみ切った心に、ピアノの音色が心に響いて涙が出ている事にも気が付かないくらいだったのです。
確かに私はピアノの音色は好きです。(今もオスカーピーターソンのピアノを聴きながらブログを書いています)しかし、感動して涙を流すことはめったにありません。落ち込んで、ざわついて、傷ついた心は、ほっとできる何かを熱望しているものです。
感動できるものは、日常にあふれています。気が付きさえすれば素敵なものはたくさんあるはずです。
皆さん。もっと日常を味わってみませんか。散歩するにしても、通勤(通学)するにしても、家事をするにしても。
何気ない日常も、味わうようにすれば、本当に一味違ったものになります。人は人生という名の冒険を生きています。みんながその冒険の主人公です。今その時を味わってみてください。その瞬間、何かに気付いてみてください。
コンパッションウォーク。ぜひ試してみてください。
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