私のモーニングルーティンー決めてしまえば、毎日は驚くほど楽になるー
こんにちは高杉です。
医師という仕事をしていると、1日の大半は「選択」と「決断」の連続です。診断を下す、治療方針を決める、次の一手を考える。だからこそ、私は日常のあらゆる場面をできるだけルーティン化しています。決まった順番で決まったことをする、それが私の心と頭を整える仕組みです。 食事や服装、運動、休息までも「決めておく」ことで考える負担を減らすと、気持ちが安定するだけでなく、自律神経が整い、思考が明瞭になり、必要な場面で最善の判断を下せるようになります。
今日は、その中でも一日の土台となる「朝のルーティン」についてお話ししたいと思います。
朝は「脳の排水」から始まる
朝5時半。毎日同じ時間に寝起きしているので、目覚ましがなくても自然に目が覚めます。まずはトイレを済ませてマウスピースを外します。幼い頃からストレスで歯ぎしりが酷く、以前に歯が欠けて以来、就寝時は必ず装着するようになりました。
次に体重測定をして今日の摂取カロリーを決めます。それから机に座って15分用の大きな砂時計をひっくり返し、砂が落ち切るまで頭に浮かぶことをどんどんスマホに音声入力。これは「ずっとやりたかったことを、やりなさい」という創造性の回復について書かれた本の中で、「脳の排水」として紹介されていた方法です。本来は30分ほど手書きするのが理想らしいのですが、病気で手首が弱いので音声入力にしています。頭の中のごちゃごちゃを一度外に出すことで思考が整理され、必要なことに焦点を合わせて1日を始められます。
「考えない朝食」と「考えない準備」
朝食は固定しています。脂肪ゼロのプロテインヨーグルトにチアシードと冷凍ブルーベリー、バナナ入りのプロテインマグケーキ、ゆで卵。「毎日同じで飽きないのですか?」とよく聞かれますが、「考えなくていい」というのは朝の貴重なエネルギー節約になり、そのぶん味わって食べる余裕が生まれます。
朝食を記録し、昨日の食事内容と運動量を振り返って反省。朝食を食べながら、その日の天気と予定とToDoを確認。私はADHDなので、これをしないとあたりまえにアポイントメントやタスクをすっぽかします。自己啓発系の音声メルマガを聴きながら歯磨き、洗顔とスキンケア。最近はAIの話題が多く、医療分野への応用にも期待が高まります。
最後にラジオ体操第1と第2、筋トレ15分、瞑想15分。ここまでが出勤前のルーティンです。筋トレのあとは汗だくになるので、家を出る直前に着替えます。実はこの「服」も、気温に応じた多少のレパートリーはあるものの、毎日ほぼ同じです。「今日は何を着よう」と悩むエネルギーを節約できます。ちなみに普段着はUNIQLOでしか買いません。決まったブランドから選ぶことで試着が不要になりますし、情報を集めて選ぶ手間も大幅に減らせます。365日同じカバンの、同じ場所に同じものが入っていることを確認して、いざ職場に出発!
通勤時間も「心の準備時間」に
家を出てからは駅までは徒歩15分ほど。朝日を浴びる良い運動の時間であるとともに、なかなか読む時間のない小説をオーディブルで聴けるご褒美の時間です。いまは上橋菜穂子さんの『鹿の王』を聴いています。病原菌の概念が一般的でなかった時代に、偏見や恐怖と戦う医術師の姿が描かれていて、仕事柄どうしても引き込まれます。
電車の中では英語学習を15分、アプリで日記をつけ、聖書の言葉とその解説を音声で聴いて祈りの時間を取ります。病院に着いたら、診療開始前に内科学会の学会誌をざっと読み、最新の医学情報をキャッチアップ。ここまでが、私の「朝」です。
「ストイック」ではなく「ラクをしたいから」
こう書くと、非常にストイックな生活をしているように見えるかもしれません。しかし実際はその逆で、ADHDの自分が「少しでもラクに生きる」ためにここまで仕組み化しているんです。タイムリミットのある中で選択肢が多いと、頭が混乱してなにも手につかなくなり、今しなくていいことを始めてしまいます。順番が決まっていないと、食事の前に歯ブラシをしたり、洗顔の前に化粧をしたりしはじめて、最初からやりなおしになります。だからこそ、朝の行動をすべてルーティン化し、「次に何をすればいいか考えない」状態にしておくことが、最もストレスが少ないのです。
ルーティーン管理に使っているのは「ストラクチャー」というアプリで、分単位で予定を組み、時間が来るとアラームで通知してくれます。その音に従って動いているだけで自然とやるべきことが終わっていき、それを繰り返すうちにいつのまにか目的地に着いている。まるで飛行機のオートパイロットモードです。操縦に集中する必要がない分、景色を楽しめるのも良いところです。
決定疲れ(decision fatigue)という現象
人間の脳は、一日に使える「意思決定のエネルギー」に限りがあると言われています。朝食の内容や服選び、通勤中になにをするかなど、ひとつひとつは小さな選択でも、積み重なるとたくさんのエネルギーが消費されていきます。これを心理学では「decision fatigue(決定疲れ)」と呼びます。行動科学や神経心理学の研究でも、意思決定を繰り返すほど自制心や集中力が低下し、午後になると誘惑に弱くなることが報告されています。つまり、選択肢が多いほど脳は疲れるのです。
その点、ルーティンを作ることは「決定の回数」を減らす行為です。食事メニューを固定する、服を毎日同じにする、朝の順番を決めておく――それだけで脳の負荷が大幅に軽減されます。私の実感でも、こうした「自動化」はストレス耐性や集中力の維持に非常に大きな効果があります。
「習慣」は努力ではなく、環境の設計
習慣というのは、頑張るためのものではなく、自分をラクにするための仕組みです。そして不思議なことに、「ラクをしよう」と思って続けているうちに、心や自律神経が安定し、自分自身が少しずつ成長していく。ルーティン化は、努力の代わりに環境を味方につける方法なのです。
みなさんも、もっとラクをしてみたいと思いませんか?まずはひとつだけ、朝の習慣を決めてみるのはどうでしょう。ポイントは、「考えなくてもできる仕組み」を作ること。既に習慣になっている行動に新しい習慣をくっつける、記録して見える化する、完璧を目指さず小さく続ける。こうした工夫が、習慣を自然に定着させます。「歯磨きをしたあとに3回だけスクワットしたらお気に入りのカレンダーに〇をつける」なんていいかもしれませんね。できたら思いっきり自分を褒めるのも大切です。忙しい一日の終わり、いつもより少し、疲労感の代わりに充実感を感じている自分に気づくかもしれません。


