今年は早い!数字で見るインフルエンザ(前編)
こんにちは、髙杉です。今日は内科のお話をします。
はじめに
今年は、例年よりずいぶん早く、インフルエンザの流行が始まっています。発熱外来では、こんな二つの場面によく出会うようになりました。
ひとつは、「今朝から熱が出たので、急いで来ました」という方です。検査をすると陰性。ところが翌日、もう一度来られると、今度は陽性ということが少なくありません。
もうひとつは、「4日前から熱が続いていて、我慢していたけど長引いているので、インフルエンザかどうかだけ、調べてもらえますか」という方です。
とくに前者の方には、きっとこんな思いがあるのだと思います。「とにかく早く行けば、それだけ早く治るような治療が受けられるはず」。
このように考えるのは自然なことです。早く受診したほうがいい病気も、長引くときだけ受診すれば良い病気もあります。でも、インフルエンザに関しては、ちょっと話が違います。早すぎても、遅すぎても、検査や治療がいちばん力を発揮するタイミングから、少しずれてしまうのです。
今回と次回は、インフルエンザにまつわる疑問に、数字で答えていきます。テーマは二つの「タイミング」、検査をするタイミングと、薬を飲むタイミングです。今回は流行・検査・ワクチン、次回は抗ウイルス薬のお話です。
先に結論をお伝えしておきます。インフルエンザかもしれないと思ったら、12時間ほど様子を見て、48時間以内に受診する。これだけでも持ち帰っていただけたら嬉しいです。
今年の流行は、どれくらい早いのか
今シーズンは9月4日に「流行入り」が発表されました。昨シーズンより1か月以上早く、今の集計方法になった1999年以降では2番目の早さです。
10月2日の厚生労働省の発表では、患者さんの報告数は、昨年の同じ時期のおよそ7倍になっていました。神奈川県も、全国平均を上回っています。例年なら流行が始まるのは11月から12月頃。10月に熱が出ても、「まだインフルエンザの時期じゃないから」とは言えないのが今年なのです。
では、「これって、インフルエンザ?」と思ったとき、どう確かめるのか。それが「迅速検査」です。
迅速検査は、どれくらい正確なのか
迅速検査は、鼻の奥を綿棒でぬぐって、10分ほどで結果が出る検査です。手軽ですが、発症からの時間によって正確さが大きく変わります。
国内の病院で、より精密なPCR検査と比べた研究では、本当にインフルエンザだった人のうち迅速検査で陽性と出た割合(感度)は、次のとおりでした。
- 発症から12時間未満:38.9%
- 12〜24時間:40.5%
- 24〜48時間:65.2%
- 48時間以降:69.6%
ここでいう「発症」は、高い熱が出たときではなく、寒気やのどの痛み、だるさなど、何かしらの症状が最初に出たときのことです。
言い換えると、発症して1日たたないうちに検査をすると、インフルエンザの人の10人に6人を「陰性」と見逃してしまいます。1日を過ぎると、見逃しは10人に3〜4人まで減ります。
なぜでしょうか。迅速検査は、ウイルスの「かけら」を見つける検査です。発症したばかりのころは、鼻やのどのウイルスがまだ少なく、検査で見つけられるほどのかけらが集まっていないのです。
一方で、この研究では、陽性と出た人は全員が本当にインフルエンザでした。迅速検査は、陽性なら信じてよい。でも、陰性は信じすぎない方がよい検査なのです。
「陰性」の重みは、そのときの流行の大きさでも変わります。24〜48時間で検査したとして仮に計算すると、熱で受診した人の2割がインフルエンザの時期なら、陰性のうち実はインフルエンザなのは約12人に1人。これが8割の時期になると、半分以上になります。今年の10月の「陰性」は、例年の10月ほど安心材料にはならないのです。
だから、「12時間ほど様子を見て、48時間以内に」
ここで、はじめの二つの場面に戻ってみます。
「すぐに来た」方は、見逃されやすい時間帯に検査を受けています。陰性でも安心できず、身体がつらい中、翌日もう一度通うことになりがちです。
「4日たってから来た」方は、検査はそれなりに当たります。ただ、後編で詳しくお話ししますが、インフルエンザの薬は、発症から48時間以内に飲み始めてこそ効果が得られる薬です。健康な方の場合、4日目では、陽性と分かっても薬の出番は終わっていることが多いのです。
早すぎると、検査が当たりにくい。遅すぎると、薬の出番を逃す。その間の「ちょうどいい時間帯」が、12時間ほど様子を見て、48時間以内です。
様子を見ている間は、水分をとって休んでください。解熱剤を使うなら、アセトアミノフェン(処方薬ではカロナールなど)が基本です。
とはいえ、数字の上では、丸1日経つまでは見逃しはまだ多めです。「12時間」は、発症直後だけは避けましょうという最低限の目安です。この時間帯に陰性だったときのための仕組みを、次にご紹介します。
早く来すぎて陰性だったとき
心配で早めに受診したい、その時間しか来られない、ということもあると思います。それはもちろん構いません。
当院では、発症直後で陰性だった方に、ご自宅で使える検査キットをお渡ししています(自費)。翌日ご自宅で検査して陽性であれば、改めて院内で検査をしなくても、抗ウイルス薬を処方できます。市販のキットでも構いませんが、国が承認した「体外診断用医薬品」または「第1類医薬品」の表示があるものを使ってください(「研究用」は性能が保証されていません)。
ご自宅での検査が陰性でも、安心はしないでください。自分で鼻をぬぐう検査は、見逃しがさらに多くなりがちです。熱が続く、つらさが増すときは、48時間以内を目安にもう一度ご相談ください。
こんなときは、時間を待たずにご相談ください
「12時間ほど様子を見て」は、比較的お元気な方の目安です。次のような場合は、早めにご相談ください。
すぐに受診してほしいサイン
- 息苦しさがある、呼吸が速い
- 意識がぼんやりする、言動がいつもと違う
- 水分がとれない、尿がほとんど出ない
早めにご相談いただきたい方
- 65歳以上の方、心臓・肺・腎臓の病気や糖尿病などの持病がある方、妊娠中の方
- ご家族がすでにインフルエンザと診断されている方(当院では、検査なしで抗ウイルス薬をお出ししています)
もうかかった人も、ワクチンは打つべき?
最後に、ワクチンのお話です。今年は流行が早いぶん、外来でこんな声も聞くようになりました。「9月にもうインフルエンザにかかったので、今年のワクチンはいいですよね」。
一度かかれば免疫がつくのだから、と考えるのは自然なことです。でも、打つ意味は十分にあります。
まず、インフルエンザには型があります。今シーズンのワクチンは、A型の2種類(H1N1とH3N2)とB型の1種類、あわせて3つの型に備えるものです。一方、一度かかってつく免疫は基本的にかかった型に対してだけで、別の型を防ぐ力はほとんど期待できないとされています。
では、いま流行っているのはどの型か。国の集計では、今シーズン(8月末以降)に検出されたウイルスの118件中116件が、A型のH1N1でした。今年すでにかかった方の多くは、H1N1への免疫を得ただけで、残りの2つの型には備えがない可能性が高いのです(迅速検査でわかるのはA型かB型かまでで、H1N1かH3N2かは区別できません)。
そして、残りの型がこの冬にはやることは十分にありえます。昨シーズンも、11月にA型(H3N2)、2月にB型と、型の違う二つの流行の山がありました。
ワクチンは約2週間で効き始め、効果は約5か月続くとされています。10月に打てば、B型が流行りやすい冬の終わりごろまでをカバーできます。かかった後は、治ってから1〜2週間あけるのが目安です。
当院では、すでに接種を始めています。予約は不要です。料金や受付時間、鼻に噴霧するタイプのワクチン(フルミスト)などは、こちらのお知らせをご覧ください。
おわりに
今日は、インフルエンザの流行、検査、ワクチンを、数字で見てきました。
- 今年の流行入りは、昨シーズンより1か月以上早い
- 迅速検査は、発症して1日たたないうちだと10人に6人を見逃す。陽性は信じてよいが、陰性は信じすぎない
- だから受診は、12時間ほど様子を見て、48時間以内に
- 今シーズンすでにかかった人も、ワクチンは残りの型への備えになる。効果は2週間後から約5か月
「とにかく早く行けば」と急いで来てくださる気持ちは、とてもありがたいものです。ただ、インフルエンザには「ちょうどいい時間帯」があります。熱が出たら、慌てずに、でも待ちすぎずに。
一方で、ワクチンは「少し待つ」必要はありません。流行が早い今年は、打つのも早いほど安心です。
次回の後編では、抗ウイルス薬の種類ごとの違いと、飲み始めるタイミングによる効き目の差を、数字でお答えします。
参考


