【番外編】実践ガイド⑨筋弛緩法と自律訓練法
こんにちは、髙杉です。今日は、心療内科のお話をします。
はじめに
前回は、つらさを抱えている自分自身に、優しさを向ける「優しい手」を紹介しました。ここまでのACT実践ガイドでは、不快な感覚を消すのではなく、闘わずに、あることを許していく練習を重ねてきました。
こうしたお話を診察ですると、こんな声が返ってくることがあります。「それどころじゃないんです。夜は眠れないし、体はずっとガチガチで……」。体の緊張が強かったり、眠れない日が続いていたりすると、感覚と向き合う練習をしたくても、その余裕がなかなか持てません。
そこで今回は、シリーズを少しお休みして、【番外編】として、体と心をゆるめるのに役立つ筋弛緩法と自律訓練法を紹介します。眠れない方や体の緊張が強い方に、診察の中で最初にお伝えすることが多いエクササイズです。診察では、体に意識を向けることに慣れてきたら、そこに瞑想の要素を組み合わせて行うこともあります。
ただし、これはACTではありません。ACTでは、リラックスすること自体や、緊張を緩めること自体を目的にしないからです。「ゆるめなければ」「眠らなければ」と症状を消すことをゴールにすると、「ゆるまない」「眠れない」と、また感覚との闘いが始まってしまいます。症状をなくすこと自体を目的にするのは、ACTの考え方とは矛盾します。
それでも、体の緊張が強すぎて何も手につかないときの導入としては、役に立つことが多いと感じています。「ゆるめることを目的にする」ことと、「ゆるめることを入口にする」ことは、同じではありません。今日は、後者の立場で、筋弛緩法、自律訓練法、そして最後に2つを組み合わせる方法を順にお話しします。
やってみる前に
どちらの方法にも共通する注意点を、先にお伝えします。
- 痛みのある部位やけがをしている部位には、力を入れないでください。足がつりやすい方は、足先に力を入れすぎないようにしましょう。
- 心臓や血糖に関わる持病のある方、強い不安や気分の落ち込みがある方は、特に、始める前に主治医やかかりつけ医に相談してください。
- 途中で気分が悪くなった、不安が強まった、ふらつきがある、といったときは、無理に続けず中止してください。リラックスしようとすること自体が、かえって不安を強める方もいらっしゃいます。
- 眠れない日が数週間続くときは、これらの方法だけで抱え込まず、受診して相談してください。
筋弛緩法:力を入れてから、抜く
筋弛緩法は、アメリカのジェイコブソンが考案した方法で、「筋肉がゆるむと、心もゆるみやすくなる」という考え方が土台にあります。ここでは、全身を順番に行う本格的な方法を、簡単にした形で紹介します。
まずは、手でやってみましょう。
- 楽な姿勢をとる:椅子に座るか、仰向けになります。ゆったりした服で、目は閉じても、開けたままでも構いません。
- 息を吸いながら力を入れる:息をゆっくり吸いながら、片手を、数秒かけて少しずつ、ぎゅっと握りこぶしにしていきます。全力ではなく、7〜8割くらいの力で十分です。
- 息を止めて5秒ほどキープする:吸いきったところで息を止め、そのまま握り続けます。
- 息を吐きながら一気に脱力する:「ふっ」と息を吐きながら、ストンと力を抜きます。ゆっくり抜くのではなく、一瞬で手放します。
- 味わう:呼吸は自然に戻して、15〜20秒ほど、力が抜けた感覚を味わいます。じんわりした感じ、重さ、温かさ。何も感じなくても大丈夫です。ゆるんだかどうかを判定する必要はありません。
力を入れて、息を止めて、抜く。これを、1回の呼吸に合わせて1セットとして行うと、やりやすいと思います。息を止めるのは5秒ほどで十分です。苦しいときは、無理に止めず、自然に呼吸しながら行って構いません。息を止めて力を入れると、一時的に血圧が上がることがあるため、血圧や心臓に持病のある方は、息は止めず、自然な呼吸のまま行ってください。
ゆるめたいのに、なぜわざわざ力を入れるのでしょうか。緊張が強い方ほど、自分に力が入っていることに気づいていないことが多いからです。肩が上がっていても、歯を食いしばっていても、本人には「普通」の状態です。そこで「力を抜いて」と言われても、抜き方が分かりません。いったん力を入れると、その後に力を抜いたとき、落差ではっきりと「抜けた感じ」が分かります。
手だけなら1分ほどで終わります。慣れたら、肩(ぎゅっとすくめる)、顔(目をきつく閉じる、奥歯をかみしめる)、足(つま先を丸める)と、同じ手順で順番に広げていきます。全部行わなくても、肩だけ、手だけでも構いません。
「やっぱりゆるまない。自分はダメだな」と感じる日もあるかもしれません。でも、ゆるまない日があっても、失敗ではありません。力が入っていることに気づけただけでも、体に意識を向けられた、ということです。
自律訓練法:言葉を添えて、感じてみる
自律訓練法は、ドイツの精神科医シュルツが考案した方法です。「自律」という名前は、自律神経というより、「自分で自分の状態を整える」という意味合いで付けられたと言われています。心の中で決まった言葉を繰り返しながら、体に起きてくる感覚に、受け身で注意を向けていきます。
標準的な練習は、「気持ちが落ち着いている」から始まり、「腕や脚が重たい」「腕や脚が温かい」、さらに「心臓が静かに打っている」「楽に息をしている」「お腹が温かい」「額が心地よく涼しい」と、段階的に進みます。今回は最初の3つ、落ち着き・重さ・温かさだけで十分です。
ここで大切なのは、「受け身で」という点です。「重くしよう」「温めよう」と頑張ると、かえって感じにくくなってしまいます。言葉を心の中で唱えながら、「重たいかな、どうかな」と、ただ眺めているくらいの構えがちょうどよいのです。
- 楽な姿勢をとる:筋弛緩法と同じです。
- 気持ちが落ち着いている:心の中でゆっくり繰り返します。落ち着いていると思い込む必要はありません。言葉を添えて、いまの体の感覚をただ眺めます。
- 腕が重たい:まずは利き腕だけに注意を向けて、「腕が重たい」という言葉を心の中に置き、実際にどう感じるかを眺めます。重く感じなければ、感じないまま、それで大丈夫です。
- 腕が温かい:同じように、「腕が温かい」という言葉を置いて、眺めます。手が冷たい日は、「冷たいな」と気づくだけで構いません。
- 消去動作をする:日中や、このあと活動するときは、終わりに必ずこれを行います。両手をぐっと握って開く、肘を曲げ伸ばしする、大きく伸びをする、そして目を開ける。ぼんやりした状態のまま急に立ち上がると、ふらつくことがあるためです。寝る前に、そのまま眠るために行う場合は、省いても構いません。
全部で数分ほどです。毎日、決まった時間に行うほうが続けやすいのですが、気が向いたときだけでも構いません。多くの方は、最初は重さや温かさをあまり感じられません。感じられなくても失敗ではなく、繰り返すうちに、感じ取れるようになる方もいらっしゃいます。
2つを組み合わせる
ここからは、私のアレンジです。筋弛緩法で一気に脱力したあとの「味わう時間」を、自律訓練法で過ごしてみる方法です。
たとえば、握りこぶしに力を入れ、5秒キープして、ストンと脱力します。そのあと、「手が重たい」「手が温かい」と、心の中で唱えながら、感覚を味わいます。筋弛緩法の「味わう」は、何をすればよいのか曖昧になりがちですが、言葉があると、注意を向ける先がはっきりします。自律訓練法だけでは重さを感じにくい方にとっても、力を抜いた直後は、感覚をとらえやすいかもしれません。
最後は、自律訓練法と同じく、場面に応じて消去動作で終わります。
慣れてきたら、言葉もだんだん減らして、重さや温かさ、呼吸のリズムを、ただ眺めるだけにしていきます。これが、瞑想の入口になります。ただし、標準化された方法ではありませんので、合わなければ、どちらか片方だけで構いません。
おわりに
筋弛緩法は、力を入れてから抜いて、その感覚を味わう方法。自律訓練法は、言葉を添えて、体の感覚を眺める方法。そして、その2つは組み合わせることもできます。どちらも、本来はリラックスを目指す方法で、ACTとは考え方が異なります。だからこそ、ゆるむかどうかをゴールにはせず、体に意識を向けるための入口として使ってみてください。
まずは今夜、手だけでかまいません。数秒かけてぎゅっと握って、5秒キープして、ストンと抜いて、そのあと15秒ほど、手の感覚を味わってみてください。ゆるまなくても、それで大丈夫です。体に意識を向けられたことのほうを、大切にしていきましょう。


