こんにちは、髙杉です。今日は私の日常のお話をします。

はじめに

突然ですが、みなさんは映画は好きですか?
実は私は、映画をたくさん観るタイプではありません。
7月から大ヒットしていた『鬼滅の刃』も、結局このお正月になってやっと観たくらいです。
ただ、ひとつだけ例外があります。それがディズニー/ピクサー映画です。
単純に楽しめるストーリーの奥に、人の心の動きの複雑さが見事に描き出されていて、考察が捗ります。
今日はそんなディズニー/ピクサー映画の中から、おすすめの一作を紹介したいと思います。
それが、2024年夏に公開された『インサイド・ヘッド2』です。

『インサイド・ヘッド2』って、どんな映画?

『インサイド・ヘッド』シリーズは、人の「心の中」を舞台にした物語です。
主人公はライリーという女の子。彼女の頭の中には、
「ヨロコビ」 「カナシミ」 「イカリ」 「ムカムカ」 「ビビリ」
といった感情たちが暮らしていて、まるでチームのように協力しながら、ライリーの日常を支えています。
前作では、「悲しみ(カナシミ)にも大切な役割がある」ということが、やさしく描かれていました。
続編である『インサイド・ヘッド2』では、物語はライリーの思春期へと進み、
ライリーの心の中にも変化が起こります。
感情の世界に、これまでいなかった少し複雑で、扱いにくい感情たちが加わってくるのです。
その代表が、今回とても重要な存在として描かれる「シンパイ」という感情です。
そんな『インサイド・ヘッド2』の、心療内科医から見た見どころを3つ、みなさんにお伝えします。

見どころ①:「シンパイ」と「パニック」の描き方がスゴい!

シンパイは「悪者」ではない

『インサイド・ヘッド2』の大きな魅力のひとつは、不安を「敵」として描かなかったことです。
シンパイは、確かに物語の中で混乱を引き起こします。
先回りしすぎたり、考えすぎたりして、結果的にライリーを追い詰めてしまう場面もあります。
でも、この映画はシンパイを倒すべき存在としては描きません。一貫して描かれるのは、
  • 失敗しないように
  • 傷つかないように
  • 居場所を失わないように
必死にライリーを守ろうとしている健気な姿です。
 

パニックは「壊れた状態」ではない

物語の後半、ライリーは強い不安に飲み込まれ、パニック状態に陥ります。
映画の中でパニックは、 
シンパイがコントロールセンターの前で暴走し、 
自分でもブレーキをかけられなくなってしまった状態として表現されています。
シンパイは悪意で暴走しているわけではありません。
心を守ろうとするシステムがフル稼働した結果、
限界を超えてしまっただけなのです。
つまりパニックは、心が壊れたサインではなく、シンパイが一生懸命になりすぎた結果。
シンパイそのものが問題なのではなく、 
心を守るシステムをどう扱えばいいかわからなくなっている状態。
シンパイのやり方は不器用で、結果はうまくいかないこともある。
それでも、目に涙を浮かべて震えながらライリーを守ろうと奮闘する彼女の姿は、
私たちの「不安」に対する見方を変えてくれます。
私はこの映画を見て、自分の中にもいるシンパイが、とても愛おしくなりました
 

見どころ②:「ディフュージョン」と「マインドフルネス」の描き方がスゴい!

「こうあるべき」を手放す勇気

映画の中でヨロコビたちはパニックを治そうと、 
ライリーの頭に広がってしまった 
「私はダメだ」というネガティブな自己イメージを無理やり引きはがし、 
「私はいい人」「私は大丈夫」というポジティブなイメージに置き換えようとします。
けれど、これではパニックはおさまりません。
「こう考えるべき」「こう感じるべき」 
――その正しさを押し付ければ押し付けるほど、かえって心は苦しくなっていく。
そこで起きる転換が、とても印象的です。
ヨロコビたちは、「感情がライリーらしさを決めてはいけない」と気づき、
ポジティブな自己イメージをも手放します。
自己概念から「ディフュージョン」するのです。 
そして、矛盾や葛藤を抱えたまま刻々と変わりゆく「自分らしさ」を、みんなでそっと抱きしめます。
「良いところもあるけど、ダメなところもある」「頑張りたいけど、怖くもある」 
そんなふうに揺らぐ自分を、そのまま認める「アクセプタンス」の瞬間です。
 

意識を広げ、いまここに繋がる

このときから、ライリーの意識が少しずつ外に広がり始めます
  • 手に触れるベンチの感触
  • ホッケーパックがぶつかる音
  • ブレードが氷を削る響き
  • 呼吸する自分の身体
  • スタジアムに差し込む木漏れ日
これらの感覚が、ライリーを「いまここ」に引き戻していく。
心理学でいう「マインドフルネス」が、とても自然な形で描かれている場面です。
不安はまだあります。完全に消えたわけではありません。
それでも、
不安が「すべてを支配している状態」から 
「数ある体験のひとつ」に変わっていきます。
この描写が示しているのは、 
パニックからの回復とは 
不安を「正しい考えや感情」に置き換えることではなく、 
ありのままの考えや感情の存在をゆるし、 
いまこの瞬間に戻ってくることだということです。

見どころ③:「不安の居場所づくり」の描き方がスゴい!

シンパイを心のマッサージチェアに座らせる

パニックが落ち着いたあとも、シンパイはことあるごとに暴走しそうになります。
そんなときヨロコビは、シンパイを指令室のコントロールセンターからそっと離し、
部屋の隅にあるマッサージチェアに座らせ、あたたかい紅茶を差し出します。
ヨロコビはもう、シンパイを以前のように
  • 追い出したり
  • 叱ったり
  • 説得したり
しません。代わりに、
「もう大丈夫だよ」 「いまは少し休んでいいよ」
という優しい声かけをするのです。
これは「セルフコンパッション」「感情のアクセプタンス」のイメージそのもの。
落ち着いたシンパイは、
本来の役割(今やるべきことを思い出させ、注意を向けるべき点を教える)を取り戻し、
「すっかり忘れてた!ありがとう!」と、ヨロコビたちに感謝されます。
ここで描かれているのは、
  • 不安は抑えつけると暴走する。
  • でも、安心できる居場所があると、ちゃんと役に立つ。
という、臨床的にもとても正確な理解です。
この映画は、不安をなくす方法ではなく、不安と一緒にいられる関係のつくり方を教えてくれます。

おわりに

『インサイド・ヘッド2』は、
美しい映像、魅力的なキャラクターとともに泣いたり笑ったりしながら、
小難しく感じてしまいがちな心理の世界をわかりやすく学べる素晴らしい映画です。
もしいま、
  • シンパイを追い出せなくて疲れてしまった
  • 「自分はダメ」という自己イメージを変えられなくてつらい
  • シンパイがしょっちゅう暴走してしんどい
そんな感覚が少しでもあるなら、ぜひ『インサイド・ヘッド2』を観てみてください。
アマプラで200円払って観る価値は、十分にあると思います。
そして最後に、ひとつお願いです。
みなさんも「これはよかった」という映画があったら、診察のときにこっそり教えてください。
治療とは直接関係ない話題かもしれませんが、
そういう話の中に、その人らしさや大切にしているものが見えてくることも多いんです。
今年もみなさんと、そんなやりとりができたら嬉しいなと思っています。