不安が来たらまずはこうするーアクセプタンスの7ステップ(前半)ー
こんにちは、髙杉です。今日は、心療内科のお話をします。
はじめに
前回の記事では、「雨の日の対応」を例えに、雨(=感情)をコントロールしようとせず、傘を差すように行動を工夫するのがアクセプタンスだ、という話もしました。ただ、ここで多くの方がこう思います。「わかった。…で、実際にどうやるの?」
そこで今回は、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)でよく扱うアクセプタンスの7つのプロセスを、日常の場面に当てはめながら紹介します。長くなるので今日は最初の4ステップ、次回に残りの3ステップを扱います。例としてわかりやすい「社交不安(人と会うことへの不安)」で想像してみましょう。
社交不安で学ぶ「アクセプタンスの7ステップ」
社交不安症は、周囲の人からの注目や評価を受ける場面で強い恐怖・不安が生じ、その場面を回避したり耐えたりすることで、生活や社会機能に支障を来す不安症です。
人と会うことに不安を感じるあなたが、ひさしぶりに友人と会う約束をしたとしましょう。「変なことを言っちゃったらどうしよう」「会話が途切れたらどう思われるだろう」――いろいろな心配が頭から離れず、毎日そのことばかり考えてしまい、仕事にも集中できません。前日の夜はよく眠れず、当日家を出る時間が近づくにつれて胸がどきどきしてきます。重苦しい気持ちから逃れるために、なにか理由をつけてキャンセルしたい気持ちが膨らんできます。
こんなときACTが目指すのは、不安を消すことでも、我慢することでもありません。不安に対応し、価値に沿った行動の主導権を自分に戻すことです。そのための「7ステップ」がこちらです。
① 気づく:不安がやってきたことに気づいて、存在を認めてあげる
不安に対応するためには、まず「いま不安がある」と気づくことが必要です。実は不安は、気づくための“合図”を出してくれています。胸のドキドキ、胃がきゅっと締めつけられる感じ、そわそわ落ち着かない感覚――それは「不安が来たよ、対応してね」というサインです。それを無視するのは、雨が降っているのに「降っていない!」と言い張って傘を持たずに出るのと同じ。結局ダメージを受けてしまいます。しかも無視していると、不安がいつの間にか行動のハンドルを握っていることにも気づけません。
そのサインに気づいて「あ、不安がやってきたな」「私の行動を支配して、予定をキャンセルさせたがっているな」とやさしく認めてあげるのが最初のステップです。 ここではじめて、不安に振り回される以外の選択肢が生まれます。
★アクション:胸がドキドキしたら、「あ、不安が来たな」と心の中で言ってみる★
② 観察する:ちょっと距離を取って、優しく見つめてあげる
不安がやってきたことに気づいたら、次はそれを優しく観察します。観察するためには、少し距離を取ることが必要です。フィールドでサッカーボールを追いかけながら、同時に実況をすることはできませんね。いったんフィールドからあがって、実況席に座って初めて、フィールドで起こっていることをしっかり観察することができます。そうやって不安からちょっと距離を取ったら、スポーツの実況中継のように、身体・頭・心というフィールドで起こっていることを観察します。身体のどのあたりで、いちばん強く不安を感じるでしょうか。どのくらいの大きさで、どんなふうに動いていそうですか。身体のその部分は、どんなふうに反応していますか。
「距離を取る」ことは、遠くへ追い払うこととは違います。あまりに遠くに追い払ったら、観察もできませんよね。そして「観察する」ことは、評価したり分析したりすることとは違います。「いま起こっていることは良いことか」「なぜ起こっているのか」とぐるぐる考えはじめるのは、フィールドにおりてボールを追いかけはじめるようなもの。いつのまにか選手になっていることに気がついたら、すぐにまた実況席に戻ってきましょう。
★アクション:5秒間目をつぶって、身体のどこで不安を感じるかを観察してみる★
③ 名前をつける:わからない恐怖感が見慣れた不快感に変わる
実況席に座ったら、実際に実況をしてみましょう。サッカーの実況では、フィールドで起こっていることを言葉で説明しながら、「ボールがゴールネットに入った」という現象には〈ゴール〉、「ボールを手で触った」という現象には〈ハンド〉というように名前をつけていきますね。それと似ています。
「胸がドキドキしている、これは〈不安〉だな」 「このあいだの失敗を思い出している、これは〈3か月前の記憶〉で、一緒に〈恥ずかしさ〉がやってきた」 「完璧に振舞わないといけないと考えている、これは〈完璧主義〉だ」――こうやって名前をつけていくと、不安や記憶が「自分そのもの」ではなく、自分というフィールドの中で起きている現象のひとつであることがわかってきます。さらに、言葉にして正体がわかると、人はそれだけで少し落ち着きます。よくわからないものは怖いけれど、名前をつけて〈見慣れた不快感〉にしてしまえば、必要以上に怯えずにすみます。ACTでは、この作業が〈認知的フュージョン〉(思考を現実そのものとしてとらえてしまうこと)をゆるめる入口になります。
★アクション:「身体にある感覚」「頭にある考え」「心にある気持ち」にそれぞれ名前をつけてみる★
④ 居場所を作る:「シンパイ」をマッサージチェアに座らせてあげる
ここがアクセプタンスの中心です。見慣れてはいても、不快なものは不快。ただ、不快だからといって逃げたり戦ったりするのは得策ではない。不快感を無理やり追い出さず、でも暴走して自分を支配することのないように、心の中に不安の居場所を作ってあげましょう。
このイメージとして私が気に入っているのが、ディズニー映画「インサイドヘッド2」のラストシーンです。少女の頭の中を舞台に、感情がそれぞれキャラクターとして登場し、脳内コントロールセンターのレバーやボタンを操作して、少女の行動や反応に影響を与えるというちょっと変わった設定の物語。主人公を失敗から守ろうと暴走しそうになる「シンパイ」を、「ヨロコビ」が部屋の隅にあるマッサージチェアに優しく座らせ、温かい紅茶を飲ませてあげます。居場所を作るとは、不快な感情に対して「心の中にいていいよ」 「でも、いまは操縦席には座らないでね」と、優しく声をかけてあげることなのです。
★アクション:心をリビングのようにイメージし、名前をつけた不快感をそこに招き入れて座らせてあげる★
おわりに
今回は、アクセプタンスの7ステップのうち前半の4つを、社交不安で想像しながら見てきました。ただ、読んでいて「なるほど」と思っても、実際にやろうとすると少し抽象的に感じるかもしれません。けれど最初はそれで大丈夫です。アクセプタンスは、まず頭の中で「こういう感じ」とイメージできることが、立派な第一歩になります。
次回は後半の3ステップ――⑤スペースを広げる、⑥価値の方向を見る、⑦小さな行動を選ぶ――を扱います。今回の4ステップが「不安と同居する準備」だとしたら、次回は「不安を連れたまま前に進む方法」です。ぜひ続けて読んでみてください。


