こんにちは、髙杉です。今日は、心療内科のお話をします。


はじめに

これまでの記事では、不安や落ち込み、つらい気持ちへの対処法として、呼吸瞑想やマインドフルネス、ACEなどをご紹介してきました。ここまでは、アクセプタンス&コミットメント・セラピーの、「アクセプタンス」の側面を練習してきたわけです。

不安があっても選べることがある。気分が揺れていてもその中でできることがある。そう感じられるようになったいま、次は何をしたらいいのでしょうか。充実した人生を送るためには、何を目指したらいいのでしょうか。

今回は、「コミットメント」の側面について考えていきます。コミットメントは、ACTでは「価値に沿った行動」と説明されます。つまり、自分にとって何が大切なのか、どんな人生を生きたいのかを明らかにするところから始まるのです。


価値とは何か

価値という言葉を聞くと、お金、評判、成功のようなものを思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、ACTでいう価値は少し意味が違います。価値とは、何を手に入れたいかというゴールではなく、どんな人として生きたいか、何を大切にして生きたいかという人生の方向性です。

たとえば、昇進する、結婚する、痩せる。これは「目標」です。達成したかどうかが比較的はっきりしています。一方で、家族を大切にする、誠実である、学び続ける、人に優しく接する。これは「価値」です。終わりがなく、日々選び取り続けるものです。

「結婚する」という目標は、達成すればひとつの区切りになります。でも、「愛する人を大切にする」という価値を一度達成して終わり、ということはありません。忙しい日も、疲れた日も、そのときできるかたちで大切にし続けていくものです。

もっと言えば、結婚をしなくても愛する人を大切にすることはできます。高い役職につかなくても、誠実に働くことはできます。価値は、いつか遠くにある到着点ではなく、いまこの瞬間の行動の中に表れるものなのです。

目標は到着点ですが、価値は進む方向です。目的地が変わることはあっても、方角が定まっていれば、私たちは何度でも進み直すことができます。


なぜ価値が必要なのか

心がつらいとき、多くの方はこう考えます。

「不安がなくなったら、始めよう」

「緊張しなくなったら、人と会おう」

「気分が良くなったら、やりたいことをやろう」

これらはとても自然な考え方です。私たちは苦しいとき、まず苦しさをなくそうとします。なくせるのであれば、それに越したことはありません。

ですが現実には、不安が少しもなくなる日、自信が十分につく日、気分が完全に整う日は、なかなか来ません。その結果、人生そのものが「待機状態」になってしまうことがあります。

本当は始めたいことがある。本当は会いたい人がいる。本当はやりたいことがある。それでも、「いまはまだ無理」「もう少し落ち着いてから」と先送りしてしまうのです。

ここで価値が力を発揮します。

「不安はある。でも、〈成長〉を大切にしたいから始めよう」

「緊張する。でも、〈人とのつながり〉を大切にしたいから会おう」

「落ち込んでいる。でも、〈思いやり〉を大切にしたいからやろう」

このように、感情だけではなく、何を大切にしたいかに導かれて選べるようになります。ACTは、「嫌な気分をゼロにしてから生きる方法」ではありません。嫌な気分があっても、大切な方向へ進む方法なのです。


おわりに

私たちは、不安をなくすことには一生懸命になれるものですが、自分が何を大切にしたいかを考えることはあまりありません。けれど、価値が見えてくると、迷い方そのものが変わります。うまくいくかどうかだけではなく、自分らしい方向かどうかで選べるようになるからです。

ただ、「価値が大事なのはわかった。でも、自分にとって本当に大切なものがよくわからない」と感じる方もいるかもしれません。それはとても自然なことです。次回は、ACTの実践編として、自分の価値を見つけるための具体的なワークをご紹介します。お楽しみに!