風邪が吹いても痛い!通風を起こす尿酸のはなし(前編)
こんにちは、髙杉です。今日は内科のお話をします。
はじめに
今朝から足の親指の付け根が真っ赤に腫れていて、歩けないほど痛い。そう言って駆け込んでこられる方が、夏になると増えてきます。
こういうとき、私はよくお尋ねします。「健診で、尿酸値のこと、何か言われていませんでしたか?」すると、ほとんどの方が、こうおっしゃいます。「ああ、そういえば毎年引っかかっていました。でも、これまで何ともなかったので、そのままにしていて……」
痛くないから、問題ない。そう思ってしまう気持ちは、とてもよく分かります。でも、尿酸は、症状のない間に、体の中で静かに溜まっています。そしてある日、夏の暑さやビールをきっかけに、それが痛風発作として一気に現れるのです。
今日は、「尿酸とはそもそも何なのか」「痛風発作はどうして起こるのか」「なぜ夏に増えるのか」、そして「痛みのないいまだからこそ知っておきたいこと」を、順にお話しします。数字や具体的な対策は次回に譲り、今回はまず、体の中で何が起きているのかを知っていただく回にしたいと思います。
尿酸って、そもそも何?
尿酸というのは、ひとことで言えば、体の中で出る「燃えカス」のようなものです。
私たちの体の細胞や口にする食べ物には、「プリン体」という物質が含まれています。このプリン体が体の中で使われたあと、最後に残る老廃物が、尿酸です。ですから、尿酸は誰の体でも毎日作られていて、本来は腎臓から尿に混じって、きちんと捨てられていきます。
問題は、作られる量と、捨てられる量のバランスです。作られすぎたり、うまく捨てられなかったりすると、行き場をなくした尿酸が、血液の中に少しずつ溜まっていきます。この「血液の中に尿酸が多すぎる状態」が続くと、高尿酸血症と呼ばれます。
厄介なのは、この段階では、ほとんど何の症状もないことです。痛くもかゆくもない。だからこそ、健診で指摘されても、つい後回しにしてしまいがちなのですね。
痛風発作は、こうして起こる
では、その溜まった尿酸が、どうやってあの激しい痛みに変わるのでしょうか。
尿酸は、血液に溶けています。でも、水に砂糖を溶かしていくと、どこかで溶けきれなくなるように、血液が尿酸を溶かしておける量にも、限りがあります。濃くなりすぎると、溶けきれなくなった分が、針のように細かい結晶になって、関節に溜まっていきます。足の先のように、体温が低く、血の巡りがゆっくりな場所は、とくに結晶のできやすいところです。
意外に思われるかもしれませんが、この結晶そのものは、あっても痛くありません。痛みがないからと言って、結晶がないとは言えないのです。痛みが起きるのは、体を守る免疫の細胞がその結晶を見つけて、「異物だ!」と攻撃をしかけたときです。免疫と結晶の激しい戦いが、関節に炎症を起こします。あの、焼けるような激痛の正体は、この炎症なのです。
痛風発作は、典型的には足の親指の付け根、そして足首やくるぶしのあたりに出ることが多いとされます。その関節が、赤く腫れあがり、熱を持って、じっとしていても激しく痛む。これが、痛風らしい炎症の姿です。「風が吹いても痛い」から痛風、という語源のとおりですね。
だからといって、激痛になるまで待つ必要はありません。はじめは、なんとなくの違和感や、軽い腫れだけのこともあります。特に健診で尿酸値を指摘されている人は、関節が赤く腫れて熱を持つ、痛みを繰り返す、そういった「いつもと違う」の段階で、相談してくださって大丈夫です。
なぜ、夏に増えるのか
尿酸や痛風の話が、とりわけ夏に大切になるのには、はっきりした理由があります。
ひとつは、脱水です。汗をたくさんかくと、体の水分が減って、血液が濃くなります。すると、そこに溶けている尿酸も、相対的に濃くなってしまう。さらに、水分が減れば尿の量も減りますから、尿酸を捨てるルートも細くなります。濃くなるうえに、出ていきにくくなる。尿酸の結晶ができやすい環境が揃うのが、夏なのです。
もうひとつがアルコール、とりわけビールです。暑い日の一杯は確かにおいしいものですが、尿酸にとっては三重の負担になります。ビールはもともとプリン体を多く含みますし、アルコールそのものが体の中で尿酸が作られるのを促し、さらに尿酸を尿に捨てる働きまで邪魔してしまいます。ですから、「プリン体ゼロ」と書かれたビールでも、アルコールがある限り、安心とは言い切れません。
そして、意外と見落とされがちなのが、果物やジュースに含まれる果糖です。暑くて食欲が落ちているときでも食べやすく、体にも良さそうだからと、夏はついつい果物に手が伸びがちですが、実は果糖は尿酸を上げることがわかっています。
こういった、夏に陥りがちな生活習慣との、具体的な付き合い方については、次回の対策編で詳しくお話しします。
発作を起こす前に治療する意味
最後にひとつだけ、知っておくと得なことをお伝えします。
実は、尿酸値そのものは同じでも、その患者さんが痛風発作を起こしたことがあるか否かで、治療は大きく変わります。例えば尿酸値が7.5mg/dlだったとして、まだ一度も発作を起こしたことがなければ、生活の工夫で様子を見ていくことができます。ところが、一度でも発作を起こしたことがある場合、薬を使ってしっかり尿酸を下げなくてはならなくなります。同じ「尿酸値が高い」でも、扱いがずいぶん違ってくるのですね。
痛みがないと予防するモチベーションも湧いてこないかもしれませんが、症状のないいまこそ、薬を使わずいちばん身軽に対策できる時期なのです。尿酸値の具体的な目標や、治療の始めどきについては、高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン ダイジェスト版(日本痛風・尿酸核酸学会) に詳しく示されています。
おわりに
今日は、尿酸と痛風について、体の中で何が起きているのかを中心にお話ししました。
尿酸は、プリン体の燃えカスとして、誰の体にも毎日作られている。それが溶けきれずに結晶となり、免疫がそれを攻撃したときに、あの激しい痛みが起こる。そして夏は、脱水やビール、果糖によって、その一歩手前まで近づきやすい季節である。これが、今日のお話の骨子です。
痛くないうちは、なかなか本気になれないものです。でも、痛くない今だからこそ、できることがたくさんあります。次回の後編では、水分やお酒との付き合い方、食事のことなど、暮らしの中でできる具体的な工夫を、ひとつずつお話ししていきます。
尿酸が、どうして作られ、どうして溜まっていくのか。今日お話しした、その「しくみ」さえ分かってしまえば、次回の工夫も、「なるほど、だからこうするのか」と、すんなり腑に落ちるはずです。あれこれ丸暗記するより、まず理由を知ること。それが、対策を無理なく続けていくいちばんの近道だと、私は思います。
まだしばらく、暑い日が続きます。尿酸のことを頭の片隅に置きながら、どうか残りの夏を、おいしく、楽しくお過ごしください。
参考


