ACT実践ガイド⑤ ボディスキャン
こんにちは、髙杉です。今日は、心療内科のお話をします。
はじめに
前回までは、自分が大切にしたい価値の方向へ進む「前進行動」と、そこから離れていく「後退行動」についてお話ししてきました。
思考や感情に強くフックされていると、私たちは目の前のつらさに反応し、大切にしたい方向とは違う行動を取りやすくなります。今回紹介するボディスキャンは、つらさから少し距離を取り、身体に起きていることへ注意を戻すための練習です。
足先から頭まで順番に注意を向け、今そこにある感覚を観察します。不快な感覚があっても、すぐに追い払おうとせず、その感覚がそこにあるための居場所をつくります。
結果として身体がゆるんだり、眠りやすくなったりすることはあります。しかし、ボディスキャンは、不快な感覚を消したり、リラックスしたりするための方法ではありません。
ボディスキャンを始める前に
姿勢に厳密な決まりはありませんが、仰向けになり、足を肩幅ほどに開き、腕を身体の横へ自然に置く姿勢が行いやすいでしょう。手のひらは天井へ向けます。仰向けが苦しければ、横向きでも、椅子に座っても構いません。目も、閉じても開けたままでも大丈夫です。
呼吸は無理に深くしたり、ゆっくりにしたりせず、自然なままにします。これから、身体の各部位へ一呼吸ずつ注意を向けます。強く気になる感覚があれば、そこに2〜3呼吸ほどとどまっても構いません。
途中で考えが浮かんできても問題ありません。「考えにフックされた」と気づいたら、自分を責めず、今たどっている部位へ注意を戻します。注意を向け続けることではなく、それたことに気づき、そのたびに戻ることが練習です。
不快感が強くなりすぎたときは、無理にとどまり続ける必要はありません。身体と寝具が触れている感覚、周囲の音、目に見えるものなど、比較的穏やかな感覚にも注意を広げてみましょう。「不快な感覚もあるし、それ以外の感覚もある」と気づければ十分です。
まずは1日1回、寝る前など、症状がそれほど強くない時間に練習してみましょう。途中で眠ってしまっても失敗ではありません。ただし、やり方を身につけるために、ときどき眠気の少ない時間にも行ってみてください。
5〜10分で行うボディスキャン
温かさや冷たさ、重さ、圧迫感、こわばり、脈打つ感じなど、どのような感覚があっても構いません。はっきりした感覚がなければ、「今はよく分からない」という状態をそのまま観察します。無理に何かを感じようとする必要はありません。
姿勢を整える
楽な姿勢を取り、身体が床や布団、椅子に支えられている感覚へ注意を向けます。自然に呼吸が出入りしていることを、2〜3呼吸ほど観察します。無理に力を抜こうとはせず、今の身体がどのような状態にあるかを確かめてみましょう。
足先と脚
左右の足の指先へ注意を向けます。次に、足裏、足の甲、足首へと、一呼吸ずつ注意を移します。そこから、ふくらはぎ、すね、膝、太ももへ進みます。左右に温度や重さ、緊張の違いがあれば、その違いもそのまま観察します。はっきりした感覚がなくても構いません。場所が分かりにくいときは、足の指を一度だけ軽く動かし、動きを止めた後に残る感覚へ注意を戻してみましょう。
骨盤と体幹
お尻、骨盤、下腹部、腹部へと注意を移します。呼吸とともにお腹が動いていれば、その動きを観察します。呼吸そのものを変える必要はありません。続いて、胸、脇腹、背中へ注意を向けます。詰まり、重さ、こわばり、痛みなどがあれば、すぐに消そうとはせず、もう少し観察できそうなら2〜3呼吸ほどとどまります。その感覚のための居場所を、少しつくってみましょう。感覚が強すぎるときは、身体と寝具が触れている感覚や、周囲から聞こえる音にも注意を広げます。
肩・腕・手
背中から、左右の肩へ注意を移します。上腕、肘、前腕、手首へと、一呼吸ずつ進みます。続いて、手のひら、手の甲、指先へ注意を向けます。こわばりや動かしたい感覚があれば、まずその感覚を観察します。必要であれば、ゆっくり姿勢を変えて構いません。
首・顔・頭
注意を首と喉へ戻します。そこから、顎、口元、頬、鼻の周囲、目の周囲、額へと移します。最後に、頭のてっぺん、側面、後頭部を含め、頭全体へ注意を広げます。顎の緊張、顔の熱さ、まぶたの重さなど、今ある感覚をそのまま観察します。途中で別の考えに気づいたら、また今たどっている部位へ戻りましょう。
身体全体
最後に、足先から頭まで、身体全体を一つのまとまりとして感じてみます。不快な感覚、心地よい感覚、何もはっきり感じない部分が、同時に存在しているかもしれません。数呼吸、そのすべてがここにあるための居場所をつくります。
今気づいたことの中に、姿勢を変える、室温を調整する、締めつけをゆるめる、休憩を取るなど、すぐに対応できるものがあれば対応しましょう。すぐには変えられない感覚は、そこにあることを許してあげましょう。日中であれば、手足をゆっくり動かし、目を閉じていた人は目を開けます。寝る前であれば、身体への注意をゆるめ、そのまま眠りに移っても構いません。
忙しいときの短縮版
時間がない日は、短いボディスキャンでも構いません。デスクワーク中なら、30秒ほどでも実践できます。目は開けたままで構いません。足裏と床が触れている感覚、身体と座面が触れている感覚、背中と肩、手の感覚、顔と後頭部の感覚を順番に確認します。
最後に一呼吸、身体全体へ注意を広げます。不快な感覚に気づいたら、一度その存在を認めたうえで、姿勢を変える、休憩を取るなど、次の行動を選びましょう。
終わりに
ボディスキャンで大切なのは、不快な感覚を消すことではありません。感覚へ注意を向けること、考えごとに逸れても身体へ戻ること、不快な感覚をすぐに追い払わず、そのための居場所をつくることが練習です。
続けていると、これまで「つらい」「嫌な感じ」とひとまとめにしていた感覚を、重さ、熱さ、圧迫感、こわばりなど、少しずつ細かく捉えられるようになることがあります。身体の状態に早く気づけると、その場でできる対応や、自分が次に取る行動も選びやすくなります。
まずは、症状が強くない時間に1日1回練習してみてください。やり方が身についてきたら、身体のこわばりや緊張、不快な感覚に気づいたときにも、短いボディスキャンを使ってみましょう。
次回は、不快な感覚を押しのけるのではなく、その感覚のための余白を広げる「エクスパンション」を紹介します。その後は、手のひらを通して身体に優しさを向ける「優しい手」の練習にもつなげていきます。


