覚えるのをやめて、録音することにしました
こんにちは、髙杉です。今日は私の日常のお話をします。
はじめに
この8月から、当院にもAIカルテが導入されました。診察中の会話をマイクが拾って文字に起こし、カルテの下書きまで作ってくれる、という仕組みです。
AIが会話を録音して、覚えておく仕事を引き受けてくれる。実は私は、仕事の場だけでなく、日常の中でも以前からAI録音を使っています。
きっかけは、スタートアップ企業の社長がYouTubeで「話は全部録音しておきなさい」と勧めていたことでした。「そこまでするものかな」と半信半疑でやり始めたのですが、これがとても良かった。いまではすっかり習慣になっています。
私が使っているのは、notta というAIボイスレコーダーアプリです。録音するだけで文字起こしと要約を作ってくれるうえ、「議事録」「インタビュー」といったテンプレートに沿って、要点やToDoまで整理してくれます。一時間ほどの話でも、数分でまとまったテキストになります。
とはいえ、専用のアプリがないと始められないわけではありません。スマートフォンにもともと入っている録音アプリ(ボイスメモなど)で録っておいて、その音声をあとからAIに渡すだけでも、文字起こしや要約はしてもらえます。ですから、まずは気軽に試せます。今日は、私がこれをどんな場面で使っているのか、三つの使い道をお話しします。根っこにあるのは、「覚えておくことを、自分ひとりで頑張らなくていい」という考え方です。
会議の記録は、AIに任せる
一つめは、話し合いの場での記録です。
私は教会で、会社でいう会議のような話し合いに出ることがよくあります。こうした場で、以前の私はいつも困っていました。
ADHDがあるので、メモを取りながら話の中身にも集中する、というマルチタスクがとても苦手なのです。手を動かせば話が耳から抜けていき、話に集中すれば手が止まる。いつのまにか話が先に進んでいたり、「結局何が決まったんだっけ?」とあとで頭を抱えることもしばしばでした。
ところが、AIボイスレコーダーを置いておくと、話し合いが終わって数分もすれば、記録が出来上がっています。しかもただの文字起こしではありません。「何が決まったのか」「まだ決まっていないことは何か」「誰が・何を・いつまでにやるのか」——これが整理された状態の議事録が手元に残るのです。
おかげで、私は記録のことを気にせず、目の前の話し合いに集中できるようになりました。記録はAIに任せてしまえばいい。そう思えばこそ、相手の話を理解することに集中できるし、クリエイティブなアイデアも浮かんでくるというものです。
感情が揺れたときこそ、録音が助けになる
二つめは、頭というより心の話です。先程は「何が決まったか」を記録する使い方でしたが、今度は「何を言われたか」を、あとから自分で確かめるための使い方です。
話し合いの場にかぎらず、強い言葉をぶつけられたり、思いがけず責められたり——感情が大きく揺れるようなやり取りを経験したことはないでしょうか。そういうとき、私はまず録音しておくようにしています。
というのも、人の記憶は、感情が大きく揺れているときほど当てになりません。脳科学の分野では、記憶は思い出すたびに少しずつ書き換えられていく、と考えられています(これを「再固定化」と呼びます)。私自身の実感としても、強い怒りや不安をかかえたまま思い返すと、記憶はどうしてもネガティブな側へ引っ張られやすいように感じます。そこで、事実が確認できる録音が役に立つわけです。
ただ、ここでいちばん助かるのは、「録音を最初から聞き直さなくていい」ということです。たとえば二時間苦言を受けたとして、そのすべてをもう一度聞き返すのは、それだけでかなりの負担です。でもAIに渡せば、全体を要約してもらったり、「自分が直したほうがいい点だけ挙げて」と頼んだりできます。
確認したい場所がわからなくても大丈夫。曖昧な記憶からでも検索することができます。ふつうの文字起こしでも言葉を検索することはできますが、一言一句一致した言葉を入れないとヒットしません。ところがAIは、「たしか、こういうことを言われた気がする」「これはハラスメントかもしれない、と感じた発言があった」——そんな曖昧な尋ね方でも、意味をくみ取って、該当しそうな箇所をリストアップしてくれます。
そしてもう一つ。感情が高ぶっているときは、どうしても物事を公平に見られなくなります。そこを、AIに落ち着いて整理してもらうのです。自分が相手に対して批判的になりすぎているときは、「この相手の言葉を、できるだけ好意的に受け取るとどう解釈できますか」と聞いてみる。逆に、自分を責めすぎているときは、「この言い方は、客観的に見て理不尽ではないでしょうか」と尋ねる。
しかもAIは、ただ「理不尽です」と結論を返すのではありません。録音の中の実際の発言を拾って、「この言い方と、このくだりから、こういう理屈で理不尽だと言える」と、筋道を立てて説明してくれます。「なんとなく理不尽に感じるけれど、そう思うのは自分だけかもしれない」——そんなときに、自分の感覚を裏づけてくれたり、あるいは思い込みだったと気づかせてくれたりする。ひとりの頭の中でぐるぐる回してしまうことを、いったん外に出して、筋道立てて見直せる。それだけで、ずいぶん心が落ち着くのです。
難しい話は、あとで自分がわかるようにする
三つめは、専門的な話を録音しておく、という使い方です。
契約や手続きの説明など、その場ではわかったつもりでも、家に帰るとよくわからなくなっている——そんな経験は、どなたにもあるのではないでしょうか。私はそういう話こそ録音しておいて、家に帰ってからAIに「専門用語を使わずに、中学生でもわかるように説明してください」「わかりやすく図にまとめてください」とお願いします。そうすると、自分のペースで、腑に落ちるまで理解し直すことができます。
この使い方は、病院を受診するときにもおすすめです。病院では、具合が悪い中、難しくて重要な話を聞くことが多いのではないでしょうか。診察室では、緊張や不安で、説明の半分も覚えていられないのが当たり前です。「わかりました」と言って診察室を出たあと、「……で、結局どうすればいいんだっけ?」となってしまう。それは決して珍しいことではありません。録音してAIに渡せば、診察や検査の説明を家でゆっくり聞き直し、わかりやすく噛み砕いてもらうことができます。
「録音なんてしたら、先生を疑っているみたいで失礼かな」と遠慮される方もいるかもしれません。でも、少なくとも私は、録音してもらってまったくかまわないと思っています。むしろ、同じことを診察のたびに確認するばかりで治療が進まなかったり、あとから来られたご家族にもう一度はじめから説明するだけでその日の診察時間が終わってしまったり、「わかったつもり」のまま間違った方向に治療が進んでしまったりするほうが、ずっと困ることなのです。だから、ぜひ録音してください、というのが私の本音です。
ただし、病院によっては録音を一律で禁止しているところもあります。ですから、ここでも次にお話しする一点だけは、忘れないでいただきたいと思います。
録音するなら、ひとこと許可を
三つの使い道をお話ししてきましたが、どの場面にも共通して、大切にしていることが一つあります。それは、録音する前に、必ずひとこと許可を取る、ということです。
これは、録音を勧めていたYouTuber社長も、強く言っていたことでした。会議でも、受診の場でも、相手のある場で録音するなら、「あなたの話を正しく理解したいので、録音してもいいですか」と一言添える。ただそれだけのことです。
録音は、相手を疑ったり、あとで責めたりするための道具ではありません。自分が話にちゃんと向き合い、あとで自分の記憶や理解を確かめるための道具です。だからこそ、こそこそ隠れて録るのではなく、堂々とお願いすればいい。私はそう考えています。
おわりに
今日は、私のAI録音の使い道を三つ、お話ししました。会議の記録をAIに任せること、感情が揺れたときに記憶をAIと一緒に確かめること、そして難しい話をあとで自分にわかる形に噛み砕くこと。どれにも通じているのは、覚えておくことを、自分ひとりでがんばらなくていい、ということです。
録音というと、これまでは「証拠のために残しておく」ような、少し特別な行為だったかもしれません。でも、これからは違うと私は思っています。誰もが日常のちょっとした話を気軽に録音して、それをAIに渡し、要約させたり、わかりやすく言い換えさせたり、自分の使いやすい形に加工する——そんなふうに、AI録音が当たり前になる時代が、きっとやってきます。
今日の記事を読んでちょっと気になったのなら、ひとこと許可をもらって、まずは一つの場面から録音してみませんか。次にどこかで少し難しい説明を受けるとき——それが、ちょうどいい入り口になるかもしれません。


