ACT実践ガイド②マインドフルネス
こんにちは、髙杉です。今日は、心療内科のお話をします。
はじめに
前回の記事では、ACTのエクササイズとして「呼吸瞑想」を紹介しました。静かな場所で数分間、呼吸に意識を向ける練習です。呼吸瞑想は、ACTの中でも、とても基本的なスキルです。
ただ、こう思った方もいるかもしれません。「忙しくて瞑想する時間がない」「家ではこどもから目を離せない」「座って瞑想するのは、ちょっとハードルが高い」。
実はACTには、特別な時間を取らなくてもできる練習がたくさんあります。そのひとつが、私が〈日常のマインドフルネス〉と呼んでいる練習です。日常生活の中で、ほんの数秒から数分、いつもの動作の中で「いまここ」に注意を向ける、そんなシンプルな練習です。
〈日常のマインドフルネス〉の練習を続けていると、気づかないうちに思考や感情に飲み込まれてしまう時間が、少しずつ減っていきます。
マインドフルネスという言葉の誤解
「マインドフルネス」という言葉を聞くと、少し怪しいイメージを持つ方もいるかもしれません。宗教っぽい、スピリチュアルっぽい、特別な精神状態に入る修行。そんな印象を持たれることがあります。ACTや心理療法でいうマインドフルネスは、そういう非日常的なものではありません。
マインドフルネスは、儀式や修行の中でしか体験できない特別な精神状態を指す言葉ではありません。いまここで起きていることに注意を向け、好奇心をもってありのままに味わう態度のことです。
例えば、手を洗うときに水の感触に気づく。歩くときに足の動きを感じる。飲み物の香りや味に注意を向ける。そんな、ごく日常的な体験です。
私たちの意識はどこにある?
私たちの日常生活で、「いまここ」に注意を向けている時間は意外と多くありません。職場へ向かって歩きながら、今日の予定を考えている。昼食を摂りながら、午前中の失敗を思い返している。お風呂に浸かりながら、自分の将来を心配している。
身体は「いまここ」にあるのに、意識は「過去」や「未来」に飛んでいる。そんな時間が、実はとても多いのです。
もちろん、考えること自体は悪いことではありません。問題は、気づかないうちに思考に引き込まれてしまうこと。いまここにある心地よさや安心を無視して、いまここにない苦痛を膨らませながら繰り返し味わい続けていては、頭も心も疲れ切ってしまいます。
日常のマインドフルネスの基本ステップ
日常のマインドフルネスのやり方は、とてもシンプルです。どんな場面でも共通している3つのステップがあります。
① まず、五感に注意を向けます。目で見るもの、耳で聞こえる音、身体の感覚、匂いや味など、いま身の周りで起こっていることに気づきます。
② その体験を観察します。良い悪いを評価せずに眺めます。「味わう」と言っても良いでしょう。味わう中で、自分がどう感じているかにも気が付くかもしれません。
③ 他のことを考えて注意が逸れたり、頭の中で評価や分析が始まったことに気づいたら、また感覚の観察に戻ります。
人の注意はすぐに、過去の出来事や未来の心配へと飛んでいきます。不快な感覚に対しては、「この音は耳障りだ」「なんでこんな音がするんだろう」「この音を消すにはどうしたらいいだろう」と評価や分析が始まります。それは自然なことです。
思考に引きずり込まれたことに気づいて、いまここに戻ってくる。呼吸瞑想と同じように、「逸れたら戻る」を繰り返すことが、思考から抜け出す練習になります。
この基本ステップを使って、日常のさまざまな場面で練習することができます。今回は3つの場面を紹介します。
日常のマインドフルネス ① 手を洗う
まずは、手を洗うときです。いつもはほとんど無意識でやっている動作ですが、この15秒だけ、いまここに注意を向けてみます。
水の温度、石鹸の匂い、手のひらや指の動き、流れる水音。手洗いは、豊かな感覚に満ちています。感覚をひとつ選んで、初めてそれを見つけたこどものような好奇心で味わってみます。
「次の予定はどうしよう」などの考えが浮かんだら、また水や泡の感覚に注意を戻します。私たちの意識が、たったの15秒もいまここにとどまっていられないことを、実感してみてください。
日常のマインドフルネス ② 歩く
次は、外を歩くときです。駅やスーパーまでの見慣れた道を歩くとき、私たちはうわのそらになりがちです。目や耳に入る情報は多すぎるかもしれません。ここでは、身体の感覚に意識を向けてみましょう。
足の裏が地面に触れている感覚、体重がかかとからつま先へ移る感覚、身体が前に進む感覚。身体を支える背中の感覚、自然に振られる腕や肩の感覚。一歩ずつ変化していく感覚に注意を向けてみます。
考えごとが始まったことに気づいたら、また足の感覚に戻ります。移動は予定の切り替えタイミングであることが多いですよね。一度いまここに戻ることで、前の予定を引きずらずに次の予定に臨めるかもしれません。
日常のマインドフルネス ③ 飲み物を飲む
最後は、飲み物を飲むときです。どんな飲み物でも構いません。毎日飲んでいるもので、練習してみましょう。
湯気のかたち、カップの手触りに注意を向けます。香りはあるでしょうか。口に含んだときの温度や味を、注意深く観察してみましょう。水道水に、ほのかな甘みを感じるかもしれません。飲み込んだ後の口には、どんな感覚が残っているでしょうか。
忙しい日でも、ひとくちの飲み物を飲む時間はあるはず。その数秒を、「逸れたら戻る」マインドフルネスの時間にすることができます。
おわりに
いかがでしたか。「マインドフルネス」というと、スピリチュアルな精神トレーニングのように聞こえるかもしれません。しかし実際にはとても日常的なものであると思っていただけたなら、このブログの目的は達成です。
幼いこどもは、マインドフルネスの天才です。彼らはいつも、いまここに生きています。赤ちゃんが自分の手をしげしげと眺めたり、幼稚園児が蛇口の水でいつまでも遊んでいたりするのを、見たことがあるのではないでしょうか。
もし私たちが、彼らと同じような態度で日常を生きることができたら、どうでしょう。とても豊かで鮮やかな毎日を送ることができると思いませんか。
もちろん我々大人は彼らと違って、常になにも考えずに生きることはできません。ただ、考えごとをするかいまここに意識を向けるかは、練習をすれば選べるようになります。
忙しい毎日の中で、まずは1回15秒。最初は心地良い体験を選ぶのが良いでしょう。考えごとから抜け出して、いまここにあるあなたの人生を、味わってみてください。


