ACT実践ガイド③ ACE
こんにちは、髙杉です。今日は、心療内科のお話をします。
はじめに
これまで、心療内科の記事では、アクセプタンスの練習として、呼吸瞑想とマインドフルネスについて紹介してきました。この2つは、アクセプタンスの7つのステップのうち、特に前半の練習です。今日は、その続きとして、後半に関わる練習を紹介します。
呼吸瞑想とマインドフルネスによって、不安やネガティブな考えから少し距離を取ることができました。不安の居場所を作ることで、一生懸命不安と戦う必要がなくなりました。
不安に振りまわされなくなったぶん、あなたがコントロールできることは増えているはずです。不安との戦いにエネルギーを割かなくて済むので、気力に余裕があります。
不安の居場所を作るのではなく、不安を無視することで、短期的に自分をコントロールできたという経験を持っている方もいるでしょう。でもそれは、長続きしなかったはず。不安を無視しなくても、自分をコントロールすることはできる。それを確認できるのが、ACEというスキルです。
ACEエクササイズとは
このエクササイズは、3つのステップから成り立っています。この3つのステップの頭文字を取って、ACE(エース)エクササイズと呼ばれています。
Aは、”Acknowledge your inner experience”。直訳すると、「内的体験に気づく」です。簡単に言うと、思考や感情、身体の感覚など、自分が感じていること、考えていることに気づく、ということです。
Cは、”Come back into your body”。直訳すると、「自分の身体に戻る」です。自分の身体に意識を戻し、身体をゆっくりと動かすことで、自分の身体のコントロールを取り戻していきます。
Eは、”Engage with the world”。直訳すると、「世界と関わる」です。いくつかの解釈がありますが、このエクササイズでは「周りの世界と繋がる」と解釈して、いま自分の周りにあるものに意識を向けていきます。
実は、これまで紹介した呼吸瞑想はC、マインドフルネスはEにあたるステップです。そこにAを加えることで、「不安があっても自分は自分をコントロールできる」ことを、よりはっきりと実感できるようになります。
それでは、ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
A:思考や感情に気づき続ける
呼吸瞑想やマインドフルネスでは、まず呼吸や五感に意識を向け、思考や感情に引っ張られて意識が逸れたらそのときに、それらに居場所を作って呼吸に戻ってくる練習をしてきました。これは、意識の対象をコントロールする練習とも言えます。意識のスポットライトを、雑念から呼吸に戻してくるようなイメージです。
ACEでは、まず思考や感情に意識を向けます。自分のいちばん内側にいまあるものを、そのまま認識します。身体のどのあたりで、いちばん強くそれを感じているかに、気づいてみてください。胃のあたりかもしれないし、喉のあたりかもしれません。頭のてっぺんかもしれません。
それがどんなタイプの感情であるかに気づいてみてください。「これは不安」「これは悲しみ」「これはつらい記憶」というように、名前をつけてみましょう。頭の中ででも声に出してでも、言葉にすると効果的です。
そして、それらをそのままそこに置いておきます。思考や感情をコントロールしようとする必要はありません。それらは基本的に、直接コントロールすることが難しいからです。私たちにできるのは、戦わずにそっとそこに置いておくことだけです。
C:身体はコントロールできることに気づく
このステップの目的は、自分がコントロールできる領域に戻ることです。
ちょっと物騒な例えですが、銃を突きつけられて、「不安を感じるな、このあと起こることを想像するな」と言われても、絶対に無理ですよね。でも、「両手をグーチョキパーと動かせ」と言われたらどうでしょう。これは出来そうな気がしませんか。身体は頭や心より、ずっとコントロールしやすいのです。
ゆっくりと身体を動かしながら、そこに生まれる感覚に意識を向けましょう。どんな動きでも構いません。首をゆっくりとまわす、足をゆっくりと踏みしめる、ゆっくりと息を吸って吐く。舌で歯の裏をなぞったり、眉を上げ下げするような小さな動きなら、どこででもできますね。
ここでひとつ、注意があります。これは、「身体を動かして気を紛らわせる」練習ではありません。「不安を押し殺して無理やり身体を動かす」練習でもありません。言ってみれば、「不安を味わいながらも身体の主導権は自分が握る」練習です。
「不安があるな、でもその不安を包んでいる身体は、自分の思うように動かすことができているな」「しんどくても、自分でコントロールできることがあるんだな」と、少しでも感じられれば、練習は成功です。
E:意識はコントロールできることに気づく
このステップの目的は、内側に閉じていた注意を外の世界へ広げることです。
不安や考えごとにとらわれているとき、注意はそこだけに集中しています。Cのステップでは身体に注意を向けたので、意識の範囲が少し広がっているはず。ここでは、身体のさらに外側、自分の周りにまで、マインドフルに意識を広げてみましょう。
私は覚えやすいように、
5つ、目で見えるものに気づく
4つ、肌で感じるものに気づく
3つ、耳で聞こえるものに気づく
2つ、においに気づく
1つ、味に気づく
という「5・4・3・2・1 法」をお勧めしています。
ここでもCのステップと同じように、不安を紛らわせたり我慢したりするのではなく、「不安を味わいながらも意識の主導権は自分が握る」練習をしていきます。「自分の心や頭という舞台で繰り広げられる劇の内容は選べないけれど、広い舞台のどこに照明をあてるかは選べる」という感じです。
「不安だけに向いていた意識を、いま聞こえている音にも広げられたぞ」「不安があっても、何に集中するかは選べるんだな」と、少しでも感じられれば、練習は成功です。
ACEのまとめと目的
練習を重ねて慣れてくると、自分の内側にある思考や感情と、それを包んでいる身体と、さらに外側にある周囲の世界に、同時に意識を広げられるようになってきます。最初は難しいと思うので、感情→身体→感情→周囲の世界、というように、感情を挟んで行ったり来たりするのがお勧めです。
まずは1日1回、数分間でよいので繰り返し練習して、やりかたを覚えます。なんとなくやりかたがわかったら、不安や悲しみが押し寄せてきたときや、頭から離れない考えに苦しめられたときに、使ってみてください。
ACEエクササイズは、不安をなくすための方法ではありません。不安があっても、その中でできることに気づき、できることを増やしていくための練習です。「自分にも選べることがある」という感覚が、行動の幅を広げていく土台になります。
不安があっても身体をコントロールできるようになると、不安を感じながらも自由に外出するという選択肢が手に入ります。意識をコントロールできると、大きな心配ごとがあっても、いまやるべきことに集中できるようになっていきます。すぐにはできませんが、少しずつ変わっていくはずです。
おわりに
ACT実践シリーズでは、ここまで3回に分けて、アクセプタンスの実践を紹介してきました。いかがでしたか。
「選べることがある」と感じられるようになったいま、「でも、何を選んだらいいのだろう」と思っている方もおられるのではないでしょうか。
次回からは、取り戻した主導権で何を選んでいくかを考えるときに役に立つワークを、いくつか紹介していく予定です。お楽しみに!


