こんにちは、髙杉です。今日は心療内科のお話をします。

はじめに

前回の心療内科記事では、社交不安を例に、アクセプタンスの前半4ステップ 
(①気づく→②観察する→③名前をつける→④居場所を作る)を紹介しました。
不安を追い出さず、でも操縦席からは離れてもらう――
ここまでは言ってみれば「準備」で、ここからが本題です。
ハンドルを取り戻したら、次はどこへ向かえばいいのでしょう。 
行きたいところがなければ、わざわざ不安の居場所を作ってあげようとは思えませんよね。
実は、アクセプタンスのスキルを身につけて使い続けるモチベーションのためにも、 
「価値に沿った行動(行きたい方向)」を見つけておくことはとても大切です。
今回は後半の3ステップ―― 
⑤身体にスペースを作る、⑥価値の方向を見る、⑦小さな行動を選ぶ――を、 
前回と同じ「社交不安(人と会う前の不安)」の場面で紹介します。
ACTが目指すのは、不安を消すことでも、根性で我慢することでもありません。 
不安があるままでも、自分がハンドルを握って、行きたい方向へ進めるようになることです。

⑤ スペースを広げる:不安以外の要素を意識する余裕を作る

不安が強いとき、私たちの注意は一点に吸い寄せられます。
 胸のどきどき。 
 前回の失敗の記憶。 
 今日起こるかもしれないことのイメージ。
それが「いまここにあるすべて」のように感じられて、世界が急に狭くなり、 
行動の選択肢も減ってしまいます。
ここでやりたいのは、不安を小さくすることではありません。 
自分の「器」を少し広げて、身体に「スペース」を作ることです。
不安を押しつぶすのではなく、息をふうっと吐いて、 
風船を少し膨らませるように、不安の周りに空間を作ってあげます。
スペースができると、不安が同じ大きさでも
「全体に占める割合」が下がって、余裕が生まれます。
この余裕が何のために必要かというと―― 
不安以外の要素を味わったり(呼吸、足裏、景色、相手の表情など)、 
価値に目を向けたり、行動を選んだりする自由を取り戻すためです。
不安が操縦席に座っていると視野が狭くなります。 
でもスペースを広げると、
「不安は助手席にいるけれど、運転は私ができる」状態に近づきます。
★アクション:息を吐く → 不安の周りを1cm広げる → 不安以外の感覚を1つだけ拾う★

⑥ 価値の方向を見る:コンパスを確認する

友人と会う約束を考えるとき、不安が心の操縦席に座っていると、
「不安がある=行かないほうがいい」と判断します。
これでは人生が狭くなってしまうことを、これまで見てきました。
では、操縦席には誰を座らせたらよいのでしょう。
ここで登場するのが「価値」です。 
価値とは、「どんな人でありたいか」「何を大切にしたいか」という“方向”を示す、 
コンパスのようなものです。
ポイントは、価値は「評価されるための目標」ではなく、 
「自分が選びたい生き方の方向」だということ。
社交不安の場面では、とくにここがすり替わりやすいので注意します。
たとえば友人に会う場面なら、
あなたの価値は「信頼」や「思いやり」、あるいは「挑戦」かもしれません。
どの価値が正解ということはなく、
「いまどの方向へ進みたいか」を思い出すことが大事です。
この価値を操縦席に座らせることで、
理想の自分に近づくにはどんな選択をしたらよいかがわかります。
★アクション:今日の場面で大切にしたい価値をひとつ決めてみる★

⑦ 小さな行動を選ぶ:一歩だけ踏み出す

コンパスで方角が決まったら、あとはそちらに進むだけ。
ここでのポイントは、「大きく頑張る」ではなく「小さく動く」ことです。
社交不安のときにいきなり「完璧な会話や振る舞い」を目指すと、 
ハードルが高すぎて動けなくなります。
ACTで選ぶのは、価値が示す方角へ踏み出す「いちばん小さい一歩」です。
 不安があってもできるサイズまで、行動を小さくします。
小さいけれど価値に沿った行動を選べたという成功体験が積み上がると、
 次はもう少し大きな一歩を踏み出すことができます。
 
ここで、ひとつ気づいてほしいことがあります。
実はあなたは、もうすでに「価値に沿った小さな行動」を起こせています。 
だって、不安を感じながらも、ここまでのステップを実践してきたのですから。
不安はずっと、心のハンドルを握ろうとしてきたはずです。
「私には難しすぎる、うまく出来なかったら自信をなくすかも」 
「効果がなくてがっかりするのが怖い、どうせやっても無駄だよ」
それでもあなたが、そのたびに不安を操縦席から降ろし、 
なんらかの価値に従ったからこそ、ここまで来られたのです。
これは立派な前進です。 
不安は助手席にいてもいい、でも運転はあなた――もうその練習を始められています。
そのうえで、次の一歩としては、たとえばこんなことが考えられるかもしれません。
 ・まずは着替えて、靴を履いて玄関まで行ってみる(価値:挑戦) 
 ・最初に「会えて嬉しい」と笑顔で伝えてみる(価値:思いやり) 
 ・今日は断るとしても、ちゃんと連絡して理由を説明する(価値:信頼)
そして、価値に沿って半歩でも進めたら、自分を褒めてお祝いすることも忘れずに!!
★アクション:選んだ価値に沿ったいちばん小さな一歩を踏み出す → できたらお祝いする★

おわりに

後半の3ステップは、「不安と同居する準備」ができたあとに、 
「どこへ向かうか」を決めて、実際に動き出すための手順です。
⑤で体の中にスペースを作り、⑥で価値というコンパスを確認し、⑦で小さな一歩を選ぶ。
これだけで、不安が完全に消えなくても、行動の主導権を自分に戻しやすくなります。
もちろん、読んで理解できても、
実際にやろうとすると難しく感じることは珍しくありません。 
とくに⑤の「スペースを作る」は、最初は感覚がつかみにくいものです。
でも大丈夫。 
まずは「不安を消すのではなく、自由を広げるためにスペースを作るんだ」と
イメージできることが、大切です。
具体的なイメージの作り方や、やりやすくする工夫については、
今後の記事でもう少し丁寧に扱っていく予定です。
お楽しみに!