「心の治療ってどんなことをするの?」—薬だけじゃない”もう一つの治療法”の話
こんにちは。髙杉です。今日は心療内科のお話をします。
はじめに
心療内科と聞くと、「休職の診断書をもらうところ」「薬を飲んで治すところ」というイメージを持つ方が多いかもしれません。でも実は、心の治療にはもうひとつの柱があります。それが「心理療法」です。みなさんは「心理療法」という言葉に、どんなイメージをもっているでしょうか。「ただ話すだけで良くなるものなの?」「スピリチュアルで胡散臭い」「考えを押し付けられそう」ーーそんな疑問や不安を抱く方もおられるかもしれません。
そこで今回は、心理療法にまつわる代表的な誤解を5つ取り上げながら、当院で行っている心理療法の本当のところを、少しお話ししてみたいと思います。
① 「話すだけで治るの?」――“気づくこと”が心の回復の出発点
心理療法の効果は、「話すこと」そのものよりも、話を通して自分の心の動きに気づくことにあります。友人との会話や日記を書く中で、言葉にしているうちに悩みが勝手に解決した、という経験をしたことがある方、おられるのではないでしょうか。悩みを言葉にすることで、いつも同じ思考パターンに陥っていることや、つらい感情を避けようとして余計につらくなっていることに、気づきやすくなります。そしてその「気づき」が、変化の第一歩になるのです。心を分析するのではなく、心を観察することから治療は始まります。心理療法では対話を通して、自分の内側に気づいていくこの作業をお手伝いします。
② 「考えや性格を変えられそうで怖い」――“考えに飲み込まれない”練習
心理療法は、性格を変えるためのものではありません。むしろ、浮かんでくる考えや感情を無理やり変えようとせず、少し距離をとる練習です。たとえば「自分はダメだ」という考えが浮かんできたとき、その考えを真実だと思い込むのではなく、「『自分はダメだ』と感じている自分がいるな、その考えを信じ込みそうになっているな」と気づくだけでも、心にスペースが生まれます。そのスペースがあることで、感情に押し流されず、「じゃあ、今の自分にできることはなんだろう」と落ち着いて考えられるようになります。考えを消したり変えたりするのではなく、考えに支配されない練習をしていくのです。
③ 「重い人がやるもの」「自分にはまだ早い」――誰にでもできる“心の筋トレ”
心理療法は、過酷なトラウマを抱えた人や、特別な症状に悩まされている人だけのものではありません。ストレスにしなやかに対応し、自分の軸を保つための練習です。ビジネスマンがコーチングを受けるときのように、心理療法では「自分が本当に大切にしたいもの(価値)」を見つめ直します。すると、状況や感情に振り回されにくくなり、迷いの中でも進む方向を見つけやすくなります。海外には、気分が沈んでいなくても定期的にカウンセリングを受け、心のメンテナンスに役立てることが自己管理の一環とされている地域もあります。生きている限り、苦痛から完全に逃れることはできませんよね。そう考えると、心理療法を通して身につけるスキルは、誰にとっても役に立つものなのです。
④ 「スピリチュアルっぽい」「難しそう」――“いまここ”に生きる練習
心理療法でよく使われる「いまここに意識を向ける」というフレーズは、スピリチュアルなおまじないではありません。たくさんの研究によって科学的に実証されたストレス対策のひとつです。人の意識は、つい過去の失敗や未来の不安に引っ張られます。「いま、ここ」は安心安全なのに、もう過ぎ去った苦痛、まだ来ていない苦痛に、没頭することができてしまうのです。これでは人生が、絶えず苦痛に支配されてしまいます。引っ張られた意識を「いま、この瞬間」に戻す練習をすることで、身体も心も少しずつ落ち着きを取り戻します。忙しい日常の中でも、たとえば呼吸を意識する、一杯のコーヒーを丁寧に味わう――そんな小さな「いま」を積み重ねることが、心のバランスを整えていくのです。
⑤ 「過去を掘り返されそう」「現実は変わらない」――“できる一歩”を見つける治療
心理療法は、いたずらに過去をほじくり返す場ではありません。むしろ、今の自分ができる一歩を見つけるための場です。過去を変えることはできないし、現実もすぐには変わらないかもしれません。それでも、「どんな自分でありたいか」「何を大切にして生きたいか」という軸をもち、つらい考えや感情と少し距離を取ることで、できることが少しずつ増えていきます。その積み重ねが、結果的に現実を変えていくことにつながります。「どうにもならないこと」を嘆くより、「いま、自分にできること」に目を向ける。そのシンプルな転換が、心の自由を取り戻す鍵です。
補足:「心理療法」と「カウンセリング」のちがいって?
ここで少し、当院における「心理療法」と「カウンセリング」の違いにも触れておきましょう。
一番の違いは、時間と費用です。「心理療法」は、診察の中で医師によって行われます。時間は診察全体で10-15分なので、心理療法にかけられる時間は5-10分程度となります。費用は保険診療の診察費に含まれ、1500円程度です。「カウンセリング」は、診察とは別に行います。医師によるものとカウンセラーによるものがあり、基本的には60分間、じっくり時間をかけて行います。費用は自費となり、医師の場合は20,000円、カウンセラーの場合は10,000円となります。
どちらも「心のサポート」を目的としていますが、性格が少し異なります。心理療法では、ゆっくり悩みをお聞きしたり過去を振り返ったりするというよりも、「具体的な考えかたや行動の練習」を中心としたアプローチを行います。診察中は十分な時間を取ることができないので、家で取り組む「宿題」を提案させていただくことが多くなるのも特徴です。カウンセリングでは十分な時間を取ることができるため、じっくりお話しながら気持ちの整理をしたり、心理療法では宿題になるような練習やワークを、その場で一緒に行うことができます。
心理療法とカウンセリング、目的やスタイルは違いますが、どちらも「心のつらさと向き合って人生をより良くする」ための大切な方法です。必要に応じて、併用することもあります。
まとめ
心理療法は、「心を変える」治療ではなく、「心とうまく付き合う力を育てる」ための練習です。浮かんでくる考えや感情にとらわれず、いまこの瞬間を丁寧に味わい、自分が大切にしたい方向へと少しずつ行動していく。それが、心の柔軟さを取り戻すいちばん確かな道です。心療内科カテゴリでは次回以降、この中でもよく耳にするテーマでありながらとても誤解されやすい言葉でもある、「受け入れる」ということについて、もう少し深く掘り下げていきたいと思います。お楽しみに!


