こんにちは、髙杉です。今日は内科のお話をします。

はじめに

 熱や喉の痛み、咳――そんな“風邪のはじまり”のような症状が出たとき、「これって病院に行くべき? それとも家で休んで様子を見てもいい?」と迷う方は多いと思います。実は、風邪やインフルエンザ、コロナのようなウイルス性の感染症は、病院に行っても行かなくても同じように治ることがほとんどです。受診する必要はなかったのに、無理に外出して体力を消耗したり、病院で別の感染症をもらってしまうのは残念ですよね。
 では、どんなときは家で安静にするのが賢明で、どんなときは受診した方がいいのでしょうか。今回の記事では、「受診しなくてもできること」「受診してできること」「受診してもできないこと」を整理して、かぜ症状のときに“いちばん合理的な選択”ができるようにまとめてみました。

受診しなくてもできること

〇 水分・食事・睡眠などの基本的療養:体を温め、しっかり休むことがいちばんの治療です。免疫は「休息中に働くチーム」。無理をせず、体力を温存することが回復への近道になります。 
〇 インフルエンザ・コロナの迅速検査(薬局で購入可):迅速検査は、発症から12〜24時間以降であれば、ある程度の信頼性で感染の有無を確認できます。医療機関で使われるものと同じ性能の抗原定性検査キットが薬局で販売されています。誰でも簡単にできますが、やり方に不安があれば病院でも同じ検査を受けられます。 
〇 喉・咳・痰・熱の薬を使う(薬局で購入可):風邪を治す薬というものはありません。医療機関で処方される風邪の薬はすべて、“つらさをやわらげる”ためのものです。そして、医療機関で処方される薬と同じ成分が同じ用量で配合された市販薬を、薬局で購入することができます。咳の薬「デキストロメトルファン」、鼻水や痰の薬「カルボシステイン」、喉の薬「トラネキサム酸」、熱や痛みの薬「アセトアミノフェン」などがそうです。薬局で相談すると、それらが含まれた市販薬を提案してもらえます。 
〈ポイント〉
 風邪やインフルエンザ、コロナなどのウイルス性上気道炎の多くは、時間とともに自然に回復していきます。まずは家でゆっくり休みましょう。検査や薬が必要なときは、近所の薬局を活用してみてください。病院で検査や処方を受けるには本人の受診が必要ですが、薬局なら家族や友人に代わりに買ってきてもらうことができます。

受診してできること

〇 ウイルス性上気道炎以外の疾患の鑑別と治療:風邪のような症状でも、細菌性肺炎や細菌性扁桃炎などが隠れていることがあります。診察や検査でその可能性を見極め、必要であれば抗菌薬、点滴などの治療を行います。 
〇 インフルエンザに対する抗ウイルス薬の処方:発症から48時間以内に使用すると、症状が続く期間を1日ほど短縮できる可能性があります。ただし、重症化リスクが低い人では効果は限定的で、必ずしも必要な薬ではありません。 
〇 診断書などの書類作成:学校や職場に提出する証明書を発行することができます。
〈ポイント〉
 医療機関を受診するいちばんの目的は、「風邪を治すこと」ではなく、「隠れた病気がないかを見極める」ことです。風邪かどうかの簡単な見極め方のひとつは、「症状の数」。意外に思われるかもしれませんが、症状が多ければ風邪の可能性が高く、熱以外の症状がひとつだけなら風邪以外の可能性が高くなります。「喉も痛いし鼻水も出るし咳もつらい」ときは家にいてよい場合が多く、「喉だけが腫れあがってすごく痛い」「咳と痰がひどいけど喉は痛くないし鼻水はない」というときは受診したほうがよい場合が多いのです。
  また、「警告症状」を知っておくことも大切です。意識がぼんやりする、喉が腫れてつばも飲み込めない、水が飲めずおしっこも出ない、といった症状は、緊急性が高いことを示しています。救急外来や、入院施設のある病院の受診がおすすめです。

受診してもできないこと

〇 病気の自然経過を大きく変えること:薬を飲んでも翌日すぐに熱が下がるわけではありません。多くのウイルス性上気道炎は、発症から2〜3日でピークを迎え、1週間前後で回復します。薬はあくまでも症状を和らげるためのものです。ウイルスを“消す”ことも、症状を“即座に止める”こともできません。 
〇 風邪に抗菌薬を処方すること:抗菌薬は細菌にしか効かず、ウイルスには効果がありません。不要な抗菌薬は、耐性菌の原因や副作用につながります。 
〇 検査で100%確定診断をつけること:発症直後はウイルス量が少なく、迅速検査で“陰性”と出ても感染を否定できないことがあります。また、適切なタイミングで受けても“偽陰性”の可能性は残ります。ある研究*では、インフルエンザの迅速検査が実際にインフルエンザにかかっている人で陽性となる確率は50〜70%、コロナの迅速検査が実際にコロナにかかっている人で陽性となる確率は50%という結果になりました。30〜50%の人が、本当はインフルエンザやコロナなのに、陰性の結果になってしまったということです。このように検査には限界があるため、「陰性=安心」とは限りません。
〈ポイント〉
 「すぐに治療する必要がある病気」と「自然な回復を待つしかない病気」があります。風邪やインフルエンザのようなウイルス感染症は後者にあたります。薬を使っても、熱や咳を一晩で消すことはできません。医師ができるのは、重い病気が隠れていないかを見極め、体が回復しやすいようにサポートすること。いわば、“自然に治る力に寄り添う医療”です。焦らず、体が回復するペースを信じて過ごしましょう。

早めの受診が望ましいケース

 例外として、次のような方は、風邪症状であっても早めに医療機関を受診することをおすすめします。 
〇 免疫抑制状態にある人:抗がん剤・免疫抑制剤・生物学的製剤・ステロイドを使用中の方、臓器移植後やHIV感染などで免疫が弱っている方が該当します。これらの方では、ウイルス性上気道炎でも重症化することがあるため、迷ったら受診が原則です。治療中の病気がある場合は、普段から主治医と「風邪症状が出たらどうするか」を話し合い、「薬局の薬を使ってもよいか」「主治医と近所のクリニックのどちらを受診するか」など、方針を決めておくと安心です。 
〇 症状を正確に伝えられない人:認知症の方や、知的障害・発達障害のある方は、症状があってもそれを言葉で伝えられません。「食事を残している」「うとうとぼんやりしている」など、周りが「なんとなくいつもと違う」と思っているうちに重症化してしまうことがあります。家族や介護者が異変に気づいた時点で受診を検討しましょう。

まとめ

 風邪のつらさは、熱や咳そのものだけでなく、「いつまで続くのか」「これで大丈夫なのか」という不安からも生まれますよね。けれど、多くのウイルス性の風邪は、体が自分の力でウイルスと戦い、少しずつ回復していくものです。薬で症状を和らげながら、休息と栄養で体を整えれば、時間とともに自然と良くなっていきます。つらいときこそ、焦らず、自分の体を信じて、ゆっくり休むことを忘れずに。あなたの体には、ちゃんと治す力が備わっています。 

 それでも、「いつもの風邪と少し違う気がする」「心配で落ち着かない」と感じたときは、どうぞ遠慮なく受診してください。受診が必要な人と、そうでない人を見分けるのも、私たち医師の大切な役割です。つづきクリニックでは今年から、インフルエンザとコロナの迅速検査、インフルエンザの抗ウイルス薬の処方を行っています。今回の記事を参考に、受診を検討してみてくださいね。

 
注*米国疾病管理予防センターによる