感情は天気みたいなもの?雨の日に学ぶアクセプタンス
こんにちは、髙杉です。今日は心療内科のお話をします。
はじめに
前回の記事では、つらい感情に出会ったときに私たちがやりがちな、「逃げる」「従う」「戦う」という3つの反応についてお話ししました。どれも短期的には助けになるけれど、長い目で見ると、自分の望む生き方から少しずつ離れてしまう。その背景には、人間がつい抱いてしまう 「感情をコントロールしたい」という願いがありました。
今回はそれらとは異なる4つ目の選択肢ーアクセプタンス(受容) を取り上げてみます。
雨の日のたとえ話
感情の話はどうしても抽象的になりがちなので、まずは「雨」で考えてみましょう。
雨って、不快ですよね。空は暗くどんよりしているし、服や荷物は濡れるし、靴は汚れるし、できれば晴れてほしいものです。でも、雨を止ませることはできません。では、人が雨の日に取れる選択肢には、どのようなものがあるでしょうか。
① 「雨は怖いもの。絶対に避けなければならない」―濡れないけれど動けない
雨を徹底的に避けようとしたら、どうなるでしょうか。
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雨が降りそうな日は、絶対に外出しない。
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どんなに大切な予定があっても、雨が降りそうならキャンセル。
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いつ雨が降るかわからないから、ずっと家にいないといけない。
この選択をしている限り、あなたは確かに濡れません。濡れる可能性がないので、安心できます。
しかしその代わりに、大切なことややりたいことができなくなってしまい、人生がとても狭くなってしまいそうです。
② 「雨が降ったら最後、自分に出来ることはなにもない」―ラクだけれどずぶ濡れに
雨に対して自分は何もできないと思い込んだら、どうなるでしょうか。
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開けっ放しの窓から雨が吹き込んで、部屋の中までびちょびちょ。
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傘も差さずに出かけて、全身ずぶ濡れ。
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濡れた服を着替えることもせず、身体がどんどん冷える。
「自分には何もできない」と思考停止することは、「判断や努力をしなくて済む」という意味では確かにラクです。
しかし、確実に望まない結果が待っています。みじめな気持ちになって、ますます無力感が強くなるでしょう。
③ 「雨なんてあってはならない、いますぐ晴れにしなくては」―前向きな無駄骨
天気を変えるために懸命に努力したら、どんなことが起こるでしょうか。
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空に向かって「晴れになれ!」と声を枯らして叫び続ける。
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晴れになることを祈って、断食や御百度参りを続ける。
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現実を無視して、「いまは晴れなんだ、晴れているんだ」と自分に言い聞かせる。
最初のうちは確かに前向きな気持ちになり、「頑張っている」という充実感が得られるかもしれません。
しかし、どんなに頑張っても、天気を変えることはできません。
勝てない戦いを繰り返すうちに、いつしか疲れ果て、絶望することになるでしょう。
④「天気は変えられないけど、行動は変えられる」―ダメージは小さく自由は大きく
実際のところ、ほとんどの人はあたりまえにこの選択をしています。
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天気を変えることに無駄なエネルギーを使わない。
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予定は調整するけれど、多少濡れてでも行く価値のあるところには行く。
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傘を差して、なるべく濡れないようにする。
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それでも濡れたら、着替えたり暖かいお風呂に入ったりする。
つまり、天気はコントロールしようとせず、行動をコントロールするわけです。
感情は天気とよく似ている
ここまで読んで、皆さんはどう思われたでしょうか。「雨を避けようとして引きこもったり、傘を差さずにずぶ濡れになったり、天気を変えようと努力することを選ぶわけないでしょう。もっといい選択肢があるんだから、わざわざそんなことをする必要がない」と思いましたか。私たちは、雨に対しては容易に「アクセプタンス+行動コントロール戦略」を取ることができます。天気については誰もが「コントロールできない」と知っているからです。
感情についてはどうでしょう。実は私たちは、幼い頃から現在に至るまで、「感情をコントロールしろ!!」というメッセージに囲まれて生きています。つらい思いをしているとき、「前向きに考えよう」「嫌なことは忘れよう」と励まされたことがあるはずです。書店には「憂鬱を吹き飛ばす方法」「不安にならない方法」が並んでいます。それに、「嫌な感情が魔法のように消えて、代わりにポジティブな感情だけが残る方法がある」というのは、魅力的な考えですよね。そのため、知らないうちに「感情は変えられるはずだ」「不快な気持ちを消せるはずだ」という考えにとらわれてしまい、「する必要がない」ことをしてしまうのです。
この「感情コントロールモード」への期待を手放し、「アクセプタンス+行動コントロールモード」を選ぶ方法は、まだあまり知られていません。ACTでは、その方法を知り、段階を踏んでスキルとして練習をします。感情に対しても、天気に対するのと同じように、いちばん有効な選択を取れるようにしていくのです。
おわりに
アクセプタンスという言葉は少し専門的に聞こえますが、その本質は決して特別なものではありません。私たちは雨の日に、雨を止めようとはせず、傘を差したり服を着替えたりと、「できる範囲の工夫」を自然に選んでいますよね。あれとまったく同じことを、感情に対してもやっていこうというのがアクセプタンスの考え方です。ただ、感情に対しては雨のように上手に扱うことが難しいため、少しずつ練習して身につけていく必要があります。
次回は、アクセプタンスを実際に使えるようにするための基本ステップ──「気づく」「観察する」「名前を付ける」「居場所を作る」など──を、順番にわかりやすく紹介していきます。ぜひ続けて読んでみてください。


